掃除
「兄上!お帰りなさい!」
「戻ったぞ!ルイス!」
マティアスは飛びついてきた愛しい弟を抱き上げた。
「ルイス、ゴミは片付けたか?」
「はい。叔父上は牢屋にいれています。兄上に会わせろとうるさいです」
「そうか。もう一つのゴミは?」
「はい。トレント公爵とご令嬢は屋敷の地下牢に入ってます。地下牢に閉じ込められた男の人たちは全員救出しました。今は城の救護室で養生しています。ですが、五人の人たちはすでに死亡していて、死体が屋敷の裏に無造作に埋められていました。掘り起こして城の墓地に埋葬しました」
「そうか、ありがとう」
マティアスとルイスのやり取りを見ていたリカオンが口を開いた。
「お前たちの会話は主語がはぶかれてていてよくわからん」
それはそうだろう。マティアスとルイスは心の中で常に会話しているので、口に出して話す事は、くだらない雑談か、結果報告だけだ。
マティアスはリカオンにルイスを任せて早速牢屋に向かった。レティシアが城に到着する前に掃除をしておかなければいけない。
レティシアにはティアラとマックスとイグニートを迎えに行ってもらっている。急がなくていいといってあるが、片付けは早くした方がいいに決まっている。
「叔父上、ただいま戻りました」
「おお、マティアス王子待っていたぞ」
牢屋の鉄格子をはさんでマティアスと叔父は向き合った。
「マティアス。私を早くここから出してくれ。ルイスのやつが、私がゲイド国とつながっていると、根も葉もない事を言って牢屋に閉じ込めたのだ」
「ご安心ください、叔父上。貴方はこれからあらゆるしがらみからも解き放たれるのです」
そこで、叔父のイエーリはおかしいと気づいたようだ。さきほどまでとはうって変わって、震える声で言った。
「マティアス。これはルイスの勘違いなのだ。早くここから、」
「いいえ、叔父上。もう嘘は結構です。マクサ将軍がすべて吐きました。叔父上、貴方はマクサ将軍からも信頼されていなかったようですね?マクサ将軍は、叔父上に裏切られた時の保険として、ゲイド国王が渡した金の燭台にの裏に、ゲイド国の紋章が彫り込まれている事を言わなかったのです。叔父上がマクサ将軍を使ってゲイド国と密約を交わした事はすでに明らかになっているのです」
イエーリはパクパクと口を動かした。マティアスは笑顔で言葉を続けた。
「あ、叔父上。明日叔父上の処刑を行いますので今夜が最期の晩餐です。リクエストは聞きますよ?」
「・・・。マティアス、私が悪かった。どうか、命だけは、」
「叔父上、明日はトレント公爵とミエリン嬢も一緒に刑を執行しますので寂しくないですよ?」
それまでブルブルと震えていたイエーリはギロリとマティアスをにらんで叫んだ。
「マティアス!これで済んだと思うなよ、必ず呪い殺してやる!」
「それはいい!叔父上、俺はこれまでただの一度も幽霊を見た事がないのです。だからぜひ死んだら俺のところにあらわれてください」
マティアスはイエーリの罵詈雑言を背中に受けながら牢屋を後にした。
マティアスとルイスは両親のかたきをうったのだ。