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職を求めて

 儂の名はドンテツ。鉄の国アイアンに工房を持つドワーフ族だ。

 歳は三十ちょうど。歳がわかりにくいとよく言われるがまだまだピチピチの若人だ。

 ひょんなことから勇者一行の仲間になり、冒険の日々を経て魔王討伐を果たした。

 得意な魔法は土魔法で主に鉱物を生成したり、味方の防御力を上げるものだ。

 守りの要とも言えるの。

 そんな儂だが、職を求めて住まいを出た。

 トールは「今のままで問題ない」とか「もし仕事が欲しいなら僕が見つけてくる」などと言っておったが。

 世話になりっぱなしなど、性に合わんからの。

 それに案外、外の生活も快適だ。

 住まいを出た時は不安であったが、この日本という国。
 とてつもなく治安が良い。

 道中、さまざまな公園という、適度な林やベンチ子供らが遊ぶ場所で寝泊まりしてきた。

 念の為、土魔法の|土建築《アースクリエイト》を使用し住居を設け、トールから教わったオリジナル魔法隠蔽もかけたわけだが。
 
 野盗や魔獣などが出ない上、一応トイレや水飲み場まである。

 まぁ、綺麗好きなカルファであれば、発狂ものかも知れんがの。

 それに朝になれば、人族が犬を連れて散歩をしたり、会話を楽しみ。

 昼になれば、老人達がゲートボールとかいう玉遊びをし、夕方になるとチィコくらいの子供らが遊ぶ。

 なんと平和なことで居心地の良いことか。
 
 だが、それも今日まで。

 なんとあのチィコが学校への入学を決めらしいのだ。

 これで、この世界で生きる道を見つけていないのは儂だけとなった。

 となればだ。

 儂も早く自分の道を見つけるほかない。

 儂は魔法で隠していた仮住まいを風化させ元通りにし、一週間前に手渡されたスマホを手に取る。

 このスマホは、カルファに貸しているような物ではなく、かんたんスマホという物らしい。

 よくはわからんが無駄な機能を省いた使い勝手のいい製品なようだ。

 やはりトールはよく見ておる。

 トール曰く、ネットで探してから応募という流れが一番早く効率的らしい。

 ネットであれば、もし採用されなくともすぐに次の求人へ応募できるからだ。

 だが、儂らドワーフはその効率というものも好かん。

 仕事は自身の肌で感じ目と耳で探してこそだ。

 とはいえ、郷に入っては郷に従えとかいう言葉だったかの。

 その国のルールがあるなら、その辺は柔軟に対応することも大切だ。

「月乃屋だったの」

 儂は取り出したスマホに、選び悩み抜いた末、働きたいと感じた店の名を打ち込んでいく。

「目的地へ案内します」

「ほうほう、これがナビというやつか」

 トールやカルファから聞いてはいたが、この地図アプリとやらのナビはかなり便利やもしれん。

 目的地を打ち込めば、画面に最短の道とかかる時間まで表示されるのだ。

 それどころか、進む方向に現在地まで表示される。

 冒険の日々でこれがあれば、もっと楽に進めたの。

 儂はナビを頼りに、公園を出て道なりを進んでいく。

 向かっている月乃屋は、ここから徒歩三十分ほどの商店街という地元に根差した商店が集う通りにある。

 事前に見ておったウェブサイトによると、この周辺では一番古くから存在しており、何代も続く老舗らしい。

 確か創業百二十年だったはず。

「ぬう……儂は今一体どちらに進んでおるのだ?」

 スマホ片手に記された道を進むが、高い建物が建ち並ぶ場所に来てから、矢印がグルグルと動きナビが煩い。

「およそ、七百メートルで右手前方向に曲がって下さい」

「うむ。それはわかっておる。だが、どちらの道を曲がればいいのだ?」

「おおよそ、七百メートル先で右手前方向に曲がって下さい」

「いや、それがわからんのだ! どうしたらいいのだ?」

「おおよそ、七百メートル先で右手前方向に――」

 全く困ったものだ。ナビとやらは煩いだけではなく、いくら尋ねようと同じ言葉を返し始めた。

 しかし、このままでは商店街はおろか、目的地である月乃屋商店にも着くのは夢のまた夢。

 そう考えた儂はナビを切り、電話帳を開く。

 カルファやトールは文字でやり取りするツールを巧み使いこなすのだが、儂は指が太い為扱いづらい。

 止まってゆっくりと入力するのであれば、特に問題はないのだが。
 とはいえ、電波とやらを使った連絡手段が一番手っ取り早い。

「ふぅ……カルファに連絡するかの? いや、あやつは仕事中だな。では、トールか……いや、あやつも役所に用事があるとか言っておったし。むう、どうしたものか……」

 悩んだ結果。

 また地図アプリを起動させ、チィコが通う学校への道を確認していた。

「ほう。チィコの学校なら、ここから二十分程度か。案外近いの」

 一週間も公園を渡り歩いたというのに、案外近くをうろうろしていたのかも知れんな。

「まぁ、これで行き先は決まったの」

 儂はチィコが通う学校の方面へと歩いていくことにした。

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