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類は友を呼ぶ

 一週間後。
 
「じゃあ、やっぱり穂乃花もトールの役に立ちたかったわけかー」

 ボクは穂乃花と給食を一緒に食べていた。

 今日の献立は、豚汁と豆ご飯、切り干し大根の煮浸しだ。パンなどはボクらの世界でもあったし、牛乳と合わせるのに違和感はなかった。

 けれど、これに牛乳を合わせるセンスはちょっと未だにわからない。

 とは言っても、おかずやご飯は相変わらず美味しい。

 ちなみに呼び名に関しては、もう敬称は付けずに話す仲となっている。

「はい! トールお兄様の役に立つことが何よりも一番嬉しいことですから! もちろん、私だけではなくて施設出身者なら全員が思っているはずです。トールお兄様は凄くてですね――」

 初日こそ、ボクの質問攻めを嫌がっていたけど、今では一つ質問を投げれば、三つ四つと返ってくる。

 もちろん、その話のほとんどが【トールについて】だけど。

「チィコ、ちょっと聞いていますか?」

「えっ、あっ、うん! 聞いているよ! トールが凄いって話だよね?」

「そうです!」

 ボクが苦笑いを浮かべながら返事を返すと、笑顔を弾けさせて応じる。

 その光景が面白いのか、クラスメイトのみんなは「まーたやってる」とか「仲良しだよね」とか思い思いの感想を口にしていた。

 仲良くなってみてわかったことだけど、ここにいる子供達は自我がないとかじゃなくて、ただただ優しいだけだった。

 けれど。

「トールお兄様って、全てが完璧なんです! 容姿もあの関西弁も、そして優しくて強い! 完璧ですよね?」

 穂乃花筆頭に、トールを褒め始めると止まらない。

 これがトールの心配するところで、ボクが穂乃花に似ていると感じるところなのだろう。

 そう言えば、トールが冒険の旅で口酸っぱく言っていた言葉があった。

 確か「人の振り見て我が振りなおせ」とかだったと思う。

 意味は、言葉のままだ。
 客観的に自分を見ること。

「これが他の人から見たボクってこと……だよね……少し気を付けよー……」

 ボクは楽しそうにお喋りする穂乃花を見て、そう心に刻んだ。
 


 ☆☆☆
 


 土曜日、ボクはクラスメイトのみんなと施設内にある公園でドッジボールとかいう玉遊びをしていた。

 戦力的に偏りがあってはいけないから、チーム分けは人族と獣人族を半分、半分にしている。

 えーっと、確か数字で言うなら50%、50%だったと思う。
 冒険や戦いがなくて、ちょっと退屈してたけど、これは楽しい。

 歌を歌ったり、体を動かしたりする体育の授業よりもだ。

「おーい! そっちにボールがいったぞー!」

 コートの外から、味方チームの男の子が言う。

「はーい! ボクに任してー!!」

 ボクは飛んできたボールを滑り込みながら掴み、体勢を立て直す為にクルンと宙返りする。

 そして体重を乗せたボールを相手コートに投げる。

 残り一人となった男の子目掛けてだ。

「いっけぇぇぇーー!」

 ボールは風切り音を鳴らしながら、一直線に向かっていく。

「うわぁぁー! 何で毎回ボールの形が変わるんだよぉぉーー!」

「私に任せて!」

 驚き諦めモードになっていた男の子の前に現れたのは、おでこを光らせたぱっつん前髪の女の子、穂乃花だ。

 彼女は一番初めにアウトになってコートの外にいる。

 いるはずなのに。

 男の子の前に立ち、ボクが投げたボールを受け止めようとしている。

「穂乃花! な、何考えてるの?!」

「大丈夫です! 私は信じていますから」

「いや、意味わかんないから! んもう!」

 ボクは力いっぱいに踏み切り、ボールより速く穂乃花の前に到達する。

「間に合った!」

「ふふっ! 作戦大成功です!」 

 ーーボスッ!

 間に合って安心したボクの背中に何かが当たる。
 振り向くと持っているはずのボールが、後ろに落ちていた。

「えっ?! どういうこと?」

「ふふん! チィコ、あなたが強過ぎたので、みんなに一芝居うってもらいました!」

「芝居? 何、どういうこと? というかさ、何でボールが二つあるの?!」

「寧ろ何故、一つしかないと思ったんですか?」

「……いや、普通は思うでしょ」

「ダメダメですね! ルールブックにはシングルドッジボール、ダブルドッジボール、マルチドッジボールの三種目があります。そして今回はどの種目をするなんて言ってない。つまり、二つでも問題ないということです!」

 何度も読んだのか、その手にはシワの付いたルールブックがあった。

「何それー……むちゃくちゃだよー……それってさ、どうやっても勝ち目ないじゃん」

「そんなことはないです! ちゃーんとルールブックを見ていれば、気付いたはずですから」

「……カルファみたい」

 ボクが嫌味を込めて言う。

 けれど、笑顔を弾けさせものともしない。

「光栄です!」

 穂乃花は、ボクの話に出てくるカルファのことを気に入っているみたいだ。

 初めこそボクに似ているかなとか考えていたけど、どちらかというと、カルファに似ている。

 トールのことを様付けで呼ぶし、理屈っぽいし。

 きっとここにドンテツが居たら「カルファにそっくりだの」とか、渋い顔をしていたに違いない。

 時間が立てば立つほど、言葉を交わせば交わすほどにそう思う。

「そ、そう……あはは。光栄なんだー……」

「はい!」

 もうどれだけ、引こうとも隠しもしない。

 いや、たぶん気付いてもいない。

 ボクが穂乃花の反応に呆れていると、後ろから聞き覚えのあるエンジン音が近づいてきた。

「お、なんや楽しそうにしてるやん」

 声のする方を振り向くと、バイクに跨ったトールがいた。

「あ、トール! ってここにトールが来るということは……」

「うん、時間やね」

 トールは頷きながら公園の中央に設置された時計台を指差す。

 ボクはその時計台に目をやる。

「えっ、もうこんな時間?」

 時計の針は、門限である18時を指していた。

 ボクら獣人族からすると、この日本という国で危険な場所なんてないのだけれど、トールが言うには、そういう問題ではなくて、子供は早く帰って早く寝た方がいいらしい。

 その理屈はわからない。

 だけど、トールの作る温かいご飯はとても楽しみだ。

「ほら、帰るで? 今日はチィコの好きなオムライスや」

「お、オムライス!」

 あのバターで炒めた玉ねぎと鶏、そしてコリコリ食感のマシュルームに煮詰められたトマトケチャップ。

 そしてトロトロ卵。

 食べたい。

 今すぐに!

「ボク、帰る!」

「こらこら、その前にやろ?」

「あ、そうだった。今日も楽しかったー! またねー!」

「いい子や、ようできた」

 トールの大きな手がボクの頭を撫でる。

「えへへーありがとう」
 
 というか、お昼に集合してから、もう何時間も遊んでたんだ。

 楽しい時間ってあっという間なんだね。

「トールお兄様!」

 ボクがしみじみしていると、穂乃花がその横を勢いよく通り過ぎていき、その後ろのここにいる全員が続いた。

「おー、よしよし! 皆仲良くやってるみたいやな!」

「はい! 皆仲良くやっています!」

 いの一番のトールの前に来た穂乃花は、トールがバイクから降りるのを確認するとおでこを光らせ抱きつく。

 この光景を初めて見た時は、トールを取られてしまうなんて考えてしまい、嫌な気持ちになった。

 だけど、今はそんなことはない。

 なんていうか……姉妹といった感じかも。

「トール兄ちゃん俺もー!」

 その後ろにいた男の子が言う。

 そして穂乃花がしたことを真似、それを皮切りに遊んでいた男の子達も次々と抱きついていく。

 穂乃花のことを姉妹なら、ここにいる男の子達は兄妹かな? 血は繋がっていないし、種族も違うけど。

「みんな一緒だね……」

 ボクはトールと一緒に、施設までみんなを送り帰った。

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