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レティシア2

 レティシアの希望は一兵士としての入隊だ。つまり女性である事を隠して男性兵士として従軍するのだ。

 これには女子供に優しいリカオンが激しく反対した。

「俺は断固反対だ。可愛い女の子をバカ猿どもの檻の中に放り込むようなもんだ」

 マティアスも本心では反対したい。だがレティシアの強い信念を読んでしまったため強く反対する事ができないのだ。

 小柄なレティシアが男装をすると、まるで小さな少年のようになってしまう。

 軍に入隊する貴族には少年兵は珍しくない。国の一大事のため、一つの貴族の家から必ず一人の兵士を出す事が義務だ。

 貴族たちは家を継ぐ長男を失いたくないため、次男三男を戦争に出す事が多い。

 レティシアが静かにしていれば女だと気づかれないのではとマティアスは思ってしまう。

 レティシアはあろう事か、自分の実力をマティアスたちに認めさせるため、リカオンとの剣の勝負を持ちかけた。

 リカオンはマティアスと同じくらい剣が強い。リカオンとレティシアが戦えば、レティシアは大ケガをしてしまうかもしれない。

 マティアスはもう一度レティシアの心を読んだ。

 不安。自信。これまでの成果。隠している必殺技。

 マティアスはホウッと息を吐いた。どうやらレティシアは剣術にかなりの自信があるようだ。

 マティアスはリカオンとレティシアの剣の試合を許可した。手に持つのは真剣だ。万が一剣が当たればただでは済まない。

 レティシアが剣を抜く。レティシアの剣を見て、リカオンはハッとした表情になった。どうしたのだろうか。レティシアの持つ剣が細身なので心配なのだろうか。

 リカオンは気を取り直したようで、土鉱物魔法で大剣を作る。リカオンの魔法はいつ見ても不思議だ。何も無いところから武器があらわれるのだから。マティアスは無意識にリカオンが作ってくれたペンダントを握りしめた。

 このペンダントを握りしめて剣に戻れと念じればマティアスの愛剣に戻るのだ。

 つまりマティアスは、わざわざ剣を持ち歩かなくてもよいのだ。

 レティシアとリカオンの剣がぶつかり合う。キィンという音の響きは耳に心地よい。

 レティシアの剣技は見事なものだった。令嬢の手習と思って軽んじていたが、彼女はかなりの剣の腕の持ち主だ。

 そしてレティシアとリカオン、言ってしまえばマティアスの剣技はよく似ていた。

 マティアスは何故だろうと首をかしげた。しばらく考えても何も思い浮かばない。

 疲れが出たのか、レティシアは次第に呼吸が乱れてきた。もうこのあたりで試合をやめさせようとした時、レティシアの剣が水をまとった。

 マティアスはアッと声をあげそうになった。レティシアの魔法剣が、マティアスの風の剣とよく似ていたからだ。

 レティシアはちゅうちょなくリカオンに向けて水の剣を放った。螺旋を描いた水の魔法は、まるで生きているようにリカオンに襲いかかった。

 リカオンは剣を構えると、水の攻撃を一刀両断した。



 

 

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