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ヴィヴィアンの帰還

 マティアスはレティシアとリカオンの剣の試合が嬉しかったので、嬉々としてリカオンに話しかけた。

「リカオン!レティシアの剣すごかったな!レティシアかっこいいな!」
「はしゃぐなマティアス。・・・レティシア嬢の剣技を見て何も思わなかったのか?」
「うん?うーん、えっと、懐かしい感じ?」

 リカオンはハァッと大きくため息をついて答えた。

「レティシア嬢の剣の師匠はヴィヴィだ」
「えっ?!何でヴィヴィなの?ヴィヴィはしばらく休養を取ってからイグニア国の偵察に行くって言ってたのに」
「だから、休養を返上して仕事してたんだよ。剣の指導のな」
「へぇ。ヴィヴィはワーカーホリックだなぁ」
「お前も少しは見習え」
「俺に事務仕事は向いてないって言ったのヴィヴィとリカオンじゃん」
「たとえそうだとしても少しはやる気を見せろって言ってんだよ」
「だって、俺が書類やるとルイスの仕事が増えるんだって」

 リカオンはジト目でマティアスを見てから、再び大きなため息をついた。

 リカオンとヴィヴィアンとルイスが、マティアスのためにがんばってくれている事は重々承知している。だが人には向き不向きがあるのだ。

 マティアスは剣術や馬術が得意だ。それ以外にも、何度も食事に毒を入れられていたため、森の食材を使って料理するのも得意だ。

 だが机に座って作業するのだけは苦手だ。机に座って書類を読んでいても意味がよくわからない。横でルイスとリカオンが説明してくれるが、それでも半分も理解できない。

 しょうがないのでルイスとリカオンか書類に目を通して、マティアスは書類に自分の名前を書くだけの仕事になった。

 
 しばらくぶりにヴィヴィアンが城に戻って来た。マティアスは勝手知ったるヴィヴィアンの部屋にズカズカ入っていった。

「ヴィヴィ、お帰りー」
「・・・。ただいま、マティアス」

 ヴィヴィアンはまだ旅装束を解いてはいなかった。ヴィヴィアンは腕を組んでマティアスをにらんだ。これは機嫌の悪い証拠だ。マティアスはまたヴィヴィアンの機嫌を損ねてしまったらしい。

「マティアス。イグニア国の偵察から疲れて帰って来た私に何か言う事はないの?」
「あっ!お土産ある?!」

 ヴィヴィアンは大きなため息をついて、リュックサックから何かの包み紙を出した。

「サンザシという実のドライフルーツよ?ルイスと分けて食べなさい」

 包み紙を開くと細長く切られたドライフルーツが出てきた。マティアスはすぐに口に放り込む。甘い。マティアスがもう一つドライフルーツを口に放り込もうとした瞬間、部屋に何かが飛び込んできた。

「ヴィヴィ!お帰りなさい!」

 その何かはルイスだった。ヴィヴィアンはルイスを抱き上げて頬ずりをした。

「ただいま、ルイス」
「ヴィヴィ、ケガはない?お疲れ様」
「まぁ!ルイスは疲れて帰ってきた私を労ってくれるのね?何ていい子なんでしょう」

 どうやらマティアスはヴィヴィアンに労いの言葉を述べなければいけなかったようだ。

 

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