萌葱の意気地編 5
ここから2つ目の関門だ。
「全軍てった―い! お願いしまーす! 早く早く!
僕と人間たちの話を聞いていたでしょっ!? それにこれは王子の命令です! だから全軍撤退してくださーい!
ほらほら! 早く!」
俺たちの叫び声に、味方の下級魔族たちが納得いかない表情をしながらもぞろぞろと撤退を始める。
対する人間の軍も大隊長クラスが撤退命令を出したため、問答無用での後退を始めた。
俺たちが比較的小声で交渉したことにより、相手側にも余計な情報漏えいはないだろう。
あったらあったで俺のせいじゃないし、秘密の交渉の相手は大隊長ともあろうお方たちなんだ。
あいつらが束になって情報統制すれば、裏取引などの情報が勇者に届くはずもない。
――うん。多分……な……?
まぁ、そこまではあっちもこっちも順調に行きそうなんだけど、さっきも言った通り、こっちには次の問題がある。
下級魔族たちの説得だ。
「さて……それでは始めましょう」
戦場に静かな時が流れ、両軍の死体回収係っぽい連中が戦場に散らばり始める。それを背中に俺たちは砂漠を後にし、“果ての森”へと入った。
数分ほど森を歩き、少し広がった原っぱに到着すると、そこで俺たちは各種族の種族長を座らせた。
ちなみに作戦会議のために果ての森まで退いたのには理由がある。砂漠から森林地帯に撤退することで一度戦場の緊張感から完全に脱し、その状態でじっくり話し合おうという魂胆だ。
もちろん戦争は一時休戦に持ち込むことが出来たので、あっちはラハト将軍に頼んでおいた自軍第2陣の中級魔族が一部警戒態勢にあたっているだけ。見張り役の魔族以外は十分にくつろいでいることだろう。
とは言っても戦場に身を置くことは多少の緊張感を強制されるものだ。その状態から離脱し完全にリラックスした心境で会議をするために、下級魔族の種族長たちをわざわざ戦場から離したというわけだ。
でも、懸念事項もある。
よからぬ企みなのか、その企みを阻止しようという正義の企みなのか。
どっちとも取れるエールディの権力闘争っぽい事情により、今現在バレン将軍と親父が軍から離れている。
あれ以来俺はバレン将軍に言われた通り他のヴァンパイアを王子に近づけないようにしているものの、もしもの時に備えて王子が身を隠しやすい森林地帯を今宵のキャンプ地に選んだのも理由の1つだ。
俺たちがいるこの場所から500メートルほど離れたあたりでは爬虫類系のチャラいお兄さん集団がアルメさんの指示の下、円を描いて囲むように王子を護衛している。
バーダー教官やフォルカーさんも継続して俺たちと同行してくれているし、警備の面では今できる最善の警戒態勢を取っているつもりだ。
んで、王子の件はいいとして。
俺の周りには70を超す魔族の種族長たち。あとはその跡継ぎや種族の重役など、およそ300の出席者が集まっている。
大小様々、体の構造や魔力の質まで多種多様な魔族たちだ。
とはいっても、目の前の魔族たちはあくまで下級。国王と初めて会った時や、間違ってバレン将軍の本陣車両に乱入してしまった時に受けた上質な魔力に比べれば大したことはない。
もちろん王子やフォルカーさん、アルメさん、そしてバーダー将軍に匹敵するような魔力を持つ魔族は見当たらないし、その4人を除けばぶっちゃけ俺がナンバーワンの魔力を持っていると言いきれるだろう。
下級魔族は各々その程度の魔力であるが、こうも大人数が揃うとなると俺でも気押されてしまう。
「話はなんだ?」
「あの戦場であれだけのことをやったんだ。つまらん話だったらお前を即消す」
「ヴァンパイアだからといって調子に乗るなよ?」
「まぁ待て。このガキは前哨戦でおぞましいことをしでかしたというあのガキではないのか?」
「うむ。そういえば姿かたちが噂と似ている。つまり“共食いのヴァンパイア”なる魔族がこのガキだと……?」
「そうなるな。だとするとこいつを“消す”のにもなかなか骨を折る可能性があるだろう」
「そんなもん知るか。我々の楽しみを邪魔したんだ。その始末、このガキの命で償ってもらわねば」
ちょっと待って。
実力主義の身分社会の下級魔族さんたちよ。
俺、ヴァンパイアとしては下位のヨール家出身だけど、一応南の国全体の中では上級だぞ?
流石に言い方ってもんがあるだろうが。
そ、そんな言い方すんなよ。そもそも俺は子供だからさ。もうちょっと優しくしてくんねぇかな?
「は、はい。ごめんなさい」
でもやっぱり強く出れないのが、俺というヴァンパイアの性分だ。
ビジネスだろうと人間関係だろうと“最初が肝心”という言葉をよく聞くが、完全に出方を間違ったな。
くっそ。負けねぇぞ。
「提案があります。皆さん、種族の垣根を超え、お互い連携し合って敵と戦いましょう」
話はさっさと済ませ。
下級魔族の種族長の1体からそう言われていたため、俺はあえて直球で臨んだ。
んで、そんな俺の提案は下級魔族の種族長たちから即座に却下された。
「ふざけんなよ!」
「ヴァンパイアのガキめ!」
「調子に乗るなァ!」
「ぶっ殺してやろうかァ!」
次の瞬間、俺に向けられる殺気と罵声の数々。
それだけならいいものの、300近い魔族のほとんどが立ち上がって武器を構え、さらには数体の魔族が実際に俺に襲いかかってきた。
「ふん!」
「タカーシ様、危ない!」
「ザコどもめ! この程度の魔力で我が友人を襲うなど愚かなことぞ」
しかしながら、そういう魔族の攻撃はバーダー教官やアルメさん、そして王子が防いでくれた。
いや、相手は下級魔族だから俺でもなんとか攻撃を防げそうな速度だったんだけど。
バーダー教官とアルメさんはいいけどさ。王子は俺を守ろうとすんなよ。
お前一応王子だし、俺が王子を守る立場なんだからさ。
「…………●■○▼&……□$#△%◆&◎△……やっぱり無理だよタカーシ君……。
こいつら全員消し去って無理矢理各種族の指揮権を奪い取った方が……。
どうだい、タカーシ君? 簡単だろ?」
あとフォルカーさん!
何ぶつぶつ呟いてんの! それ呪文だろ?
右手から天空高くまでめっちゃでかい稲妻発生しているし!
その魔法でこいつら消す気だろ!
やめろっておい! 俺の計画が台無しになっちゃうだろうがよ!
あと、フォルカーさんってそんなに血の気の多い性格だったんかい!
俺があんたに抱いていた印象を一瞬でぶっ壊すんじゃねーよ!
「待ってくださーい! なんで戦い始めようとしてんの! 今話し合いを進めてるところでしょ! 終わり終わり! 戦いは終わり! そうじゃなくて、皆さん話し合いしましょ!
さっ! 座って座って。ほら、アルメさんも座って!」
俺は慌てて立ち上がり、双方を必死になだめる。
たまたま目の前に来ていたアルメさんの背中を“例の手つき”で撫でながら、必死に叫んだ。
「僕にだって一応考えがあるんです! その理由も! だから皆さん、いちいち暴力を行使しないでください! せめて僕の話を聞いてからにしてください!」
どうでもいいけど俺がそんな感じのことを長々と叫んでいる間にも、俺の“魔法”の餌食となったアルメさんが腰から砕けるように崩れ落ちた。
「くぅーん」
久々にこんなアルメさんを見たな。
最近マッサージを施す暇なかったからなぁ。
でもやっぱり犬みたいに甘えるアルメさんは可愛いな。俺としては戦場で戦う姿なんかよりこっちの方がよっぽど――じゃなくて!
「僕が提案するのは下級魔族の皆さんを――この戦いの第1陣をさらに強くして南の国での立場を上げ、やがてはここにいる“東の猛狼”ことフォルカーさんを将軍とした新たな軍を作り上げることです!」
最終的な目的――とはいってもこの場においてはいささか的外れな内容でありつつ、でも決して不可能な計画ではない。
俺はあえてそのような発言を全員にぶん投げ、ついでに魔力を全放出しておいた。
「な、なに?」
「何を言っている?」
「突然どうした……?」
「……正気か?」
しかしながら俺の言葉に対する反応は否定的なものであり、俺の発言の真意を疑う者がほとんどだ。
でもまぁ、いきなりこんなことを言っちゃったんだから、相手の反応もこんなもんだろうな。
でも俺の魔力にビビった下級魔族たちが殺気や攻撃的な魔力を収めてくれたな。
よしよし。試合のペースをこっちに引き戻せた気がするぞ。
「正気です。それにバレン将軍とラハト将軍が言っていました。フォルカーさんはいずれ将軍になるだろうと。
僕もそう思いますし、その際には僕はフォルカー軍の幹部になりたいと思います。
フォルカーさんは僕の友人のお父さんですからね。力になりたいと思うのは当然です」
「でも、フォルカーさんが将軍になるにはいくつかの関門があるでしょう。
“軍”と呼べるにふさわしい部下の数の確保もそのうちの1つです。
どちらかというと僕はその問題を上手く利用して軍の上層部に紛れ込みたい立場ですが、あなた方はどうですか?
いつ起きるとも分からない西の国との戦争で――しかしながら大昔から幾度となく行われているにも関わらず、あなた方はまだ個人、種族ともに目立った功績がない。だから今も下級魔族として、第1陣という前座試合のようなことをしているのでは?
このままじゃ未来永劫下級魔族のまま。違いますか?」
「……」
俺の辛辣な言葉に誰も答えを返さない。
ちょっと言い過ぎたかなとも思ったけど、俺の魔力とバーダー教官たちの存在が予想以上に功を奏し、相手も強く出れなくなってしまったようだ。
結構相手の心情を煽るつもりで発言したんだけどな。
議論が盛り上がらないならまぁいいや。ここは相手の態度に甘えて一方的に攻めよう。
ちなみに、アルメさんはこの状況ですでにお眠状態だ。
自分でやっといてなんだけど――あと今も継続してアルメさんにマッサージを施しておいてなんだけど、ギラリと瞳を光らせながら下級魔族たちを煽り、しかしながらその左手は地面に横たわるオオカミの腹を撫でている俺。
多分周りからみるとかなりシュールな絵になっているんだろうけど、アルメさん、ごめんなさい。だってこうしてると俺も落ち着くんだもん。
「でも、フォルカーさんの軍が近いうちに設立されることは確かです。
そういう意味では実のところ、この戦いはあなた方にとってかつてないほどの出世のチャンスなのです。
にもかかわらずあなた方はいつも通りに無謀な攻めを続けるだけ。
いや、それどころか過去最強ともいえる敵の軍備を前に、苦戦を強いられている始末。
こんなんじゃ出世どころかフォルカーさんの出世の陰に隠れて、皆さんの功績はなかったことになるでしょう。
そして国からの処遇はさらに低いものに。
どうですか? 僕の言っていること、間違っていますか?」
「……いや……」
「そ、それは……」
「だけど……」
「……そうは言っても……」
おいおい。
どうしたどうした! お前ら、こんなガキに好き放題言われて悔しくないのか?
反論あるなら言ってみろってば。そんなんじゃこっから先も防戦一方だぞ?
「……」
ふーん。反論無しってことか。
じゃあお次。そろそろこいつらに味方してやらないとな。
「皆さんご存知の通り、僕も今日戦場に出ました。
戦場には魔族の子供の死体も多く転がっていましたね。あんな光景はもう見たくはないです」
都合のいい時に子供という存在を利用する。
東京に住んでいた頃テレビとかでよく見受けられた手法で、相手に感動や悲壮感を与えたいときには子供という存在を用いるのがなかなかに有用なんだ。
あと人々の良心に訴えたりする時も子供を利用したりな。
でもこれは立派なビジネススキルでもある。
子供をネタに相手の警戒心を解いたり相手に同情を強いるという、ごく一般的なスキルだ。
どんな生物だって子供は可愛いし、大切だからな。
それは人間も魔族も同じだろう。
「でも……」
さて、お次の段階だ。
下級魔族の種族長たちがまだ誰も俺の案に乗ってこないのが気がかりだけど、やつらが完全に勢いを失っているのは確かだ。
先生に説教される生徒みたいにさ。
最初に相手を煽り、次にその良心に訴える。
十分に相手の心を揺さぶることが出来たので、こっから先はちょっとだけ理論めいた説明だ。
「これを見てください」
そう言いながら俺は背中に背負っていた鉄の棒を取り出す。
いわずもがな。これはあの鉄砲だ。
加えて、俺は腰にぶら下げた袋からさらに小さな小包を1つ取り出し、それを銃口からねじ込んだ。
この小包はトリニトロトルエン草の根と小さな鉄の塊をセットで包んだもので、火縄銃で言う火薬と鉛玉の役目を負うものだ。
昔の日本で使っていた火縄銃じゃ別々に詰めていたらしいけど、面倒だからな。
トリニトロトルエン草を銃底側、鉄の塊を銃口側になるように方向を確かめながら詰め込み、細い棒で銃口からさらに奥に押し込むと準備完了。
後は銃底部に仕込んだ小さな穴から炎系魔法の炎を入れると、トリニトロトルエン草の根が爆発。その勢いで鉄の塊が銃口から飛び出すという代物だ。
「じゃあ行きますよ。目標はあっちの木の幹です」
「ん? なにを?」
俺が突然わけのわからない動作をし始めたため、種族長たちが首をかしげながら問いかけてきたが、俺はそれを無視して銃を発射する。
乾いた爆発音とともに鉄の塊が飛び出し、50メートルほど離れたところに生えていた木の幹にかろうじて当たってくれた。
うん。銃の初心者にしちゃ上出来だ。
まぁ、サンジェルさんの加工技術が素晴らしすぎて、マジで銃弾が照準通りに当たっちまったんだけど。
あと、俺の新兵器を見た種族長たちの反応も予想通りで、その点でも上出来だ!
「これは僕が極秘裏に開発した新しい兵器です。
でも生まれて数週間しかたっていない僕が思いつきで作り上げることのできたこの兵器、もしかすると次の戦いは人間がこれを使うかもしれません。
今現在の問題点としては、魔法のように連発できないということですが、人間がこれを開発してしまうと大変です。数百年もすれば人間はこの兵器を発展させ、連発出来るようになるでしょう。
皆さんご存じのとおり、人間とはそういう種族です」
それは俺がよく知っている。
「さて、ここで質問です」
「今、この鉄の棒の先から発射されたものは鉄の塊ですが、それがこの筒から飛び出て、あの木に当たるのを目で追えた方は? 鉄の塊が見えた方は手を上げてください」
俺の問いに、ほぼ全員の魔族が手を上げた。
まぁそうだろうな。流石魔族だ。
ついでにバーダー教官やアルメさん、王子、フォルカーさんとフライブ君たちも揃って手を上げている。
でも俺の質問はこれで終わりじゃないんだ。
「じゃあ、手をそのままにして。次の質問です。
この鉄の塊が自分に向かってきたとして、それを回避できる、または魔力による防御で防ぎきれるという自信のある方は? その自信のない方は手を下げてください」
今度は出席メンバーのうち、50人程が手を降ろした。
「まだ終わりませんよ。じゃあ次。
この弾が――そうですねぇ。1回深呼吸するぐらいの間に30発……うん。それぐらいの連射速度で襲ってきた場合に回避または防御しきれる自信のある方は?」
この質問には、100人ぐらいの魔族が手を下げる。
いや、まぁ正確な数じゃないんだけど、300ぐらいの魔族が出席してて、今はその半分ぐらいが手を下げているからそれぐらいかな。
なかなか残るじゃねぇか。
んじゃ、そろそろその数を一気に減らしてやろう。
「じゃあその機能を持ったこの鉄の棒が横に300並び、あなた方に一斉射撃して、かつ、その弾に魔法が込められていて、1発1発の威力が倍増、または各種魔法効果が付与されていた場合、その弾の嵐の中で生き残れる自信がある方は?」
「……」
ぶわっはっは! 全員手を下げやがった!
――っておい! バーダー教官やフォルカーさんまで手ぇ下ろしちゃったよ!
ビビりすぎだって! そりゃまぁ俺の話し方がホラーっぽくなっちゃってたけど、せめてバーダー教官はビビらずに手ぇ挙げ続けろ。
あんた俺の当面の目標なんだから、そんなんで諦めんな! むしろ俺が凹むわ!
「そ、そうですか」
さっきまで威勢のよかった下級魔族。
その下級魔族たちが徐々にテンションを下げ、ついでにこの場において味方だと思っていた魔族たちからの思わぬ裏切りを受けつつ、でもそれもそれで話の流れ上都合がいいので俺は慌てて心を立て直す。
「この兵器は近いうちに間違いなく人間たちも作ります。僕がふと思いついただけで、それから5日の間にここまで兵器として仕上げましたからね。しかも人間たちはこの兵器を数百年のうちに確実に発展させるでしょう」
まっ、俺はもとから銃の存在を知っていたけどな。
嘘も方便だ。
「今バーダー教官やフォルカーさんまで自粛して手を下げてくださいましたが、皆さん僕の説明を想像することはできたでしょう?
上級魔族のてだれならそれでも応戦できるでしょうが、そんな兵器を出されたらあなたがた下級魔族は全滅だ。
そんな未来にならないように、今のうちから我々も戦い方を変えなければならないのです。
まずは種族間で連携をとり、僕の指示に従い組織的に動くこと。
いずれは多種多様な兵器を駆使する戦闘集団に仕上げたいと思いますが、今この戦いではそこから始めましょう」
しかし、ここで種族長のうちの1人が小さな声で反論してきた。
「でもそれじゃ種族のアピールが出来ない。いつまでたっても我々は最下層の魔族だ」
くっそ。この三つ目野郎!
――いや、ちょっと待て。落ち着くんだ。
「そうですね。でも……」
相手のことも理解できる。
ここは冷静に。俺がいらついていたら進む話も話も進まなくなる。
「そんな階層社会はいずれ無くなります。ここに王子がいることがいい証拠ではないでしょうか?」
王子に兄弟がいるのかは知らないけど、この仔馬はウエファ“5世”という名を受け継いでいるユニコーンだ。
この国で2番目に大切な存在がさも当然のように俺たちの周りをうろちょろしている。
このユニコーンが大きく育ち、いずれこの国のトップになった暁にはつまらん身分社会なんてなくなってしまいそうだ。
いや、少なくとも俺がそうする。日本生まれをなめんなよ。
とよくわからないプライドとともに俺が心の中で意気込んでいると、他の方向から低い声が聞こえてきた。
「王子とお前の手柄にしたいだけだろ?」
わーお! イライラウナギ登り!
じゃあなにか? 俺がこの場を作るために頑張ってきたのは、全て俺自身の手柄のためだって言いたいのか?
よし、こいつを始末しよう!
「ぐっ!」
いやいやいやいや。 こらえろ俺! がんばれ、俺!
ここでキレたらすべてが水の泡。
こいつらのために。軍の勝利のために。
ただでさえバレン将軍がいない今、第1陣が崩壊してしまったら軍全体に多大な影響を及ぼすんだ。
しかも、この戦いだけではない。今は遠い未来へと影響を及ぼす重要な歴史の変換点かもしれないんだ。
さて、どうするか。
もうちょっと強めに押してみるか!
「ふん!」
俺は脅迫の意味を込めて再度強い魔力を放出する。
幻惑魔法でこいつら下級魔族が銃弾の餌食になる幻でも見せてやろうと思ったが、しかしながらここでフライブ君たちの援護がはいった。
「そんなわけないじゃん。タカーシ君はヴァンパイアなのに僕たちといつも一緒に遊んでくれるんだ」
「ぼ、僕と、い……いつも……手をつな、つないでくれ……るよ」
「おほほ。そうですわ。タカーシはヴァンパイアとして型やぶりなお方。以前真面目にお話しする機会がありましたが、この方は真剣にこの国の未来を考えておりますの」
「ふっふっふ。この方はまだ生まれて数日。なのにこの思慮深さ。器は本物です。種族の未来を任せるに十分な逸材なのですよ」
あぁ、ありがとう。俺の大切な友人たち。
皆幼いけど、今俺が最も欲しい援護をしてくれた。
そうだ。俺には身分とか関係ねぇんだよ。
気に入った子とは仲良くするし、気に入らない奴は身分が上でもずばずば言っちゃう。
それが俺であり、日本人としてもちょっと型から外れた俺という人間なんだ。
よし。じゃあ、最後は下世話な話も……。
「種族ごとへの報酬は基本一律です。でも作戦への貢献度で特別報酬という制度も設けましょう。
いずれフォルカーさん直下の軍を作り、その軍に皆さんを正規兵として迎え入れた後、細かい報酬制度を作る予定です」
金の話も重要だからな。
でも……
「いや、それじゃ結局身分の高いものがこの戦いの手柄を奪っていくだけだろう?
オオカミの獣人やそちらのドモヴォーイ族。貴様ら、ヴァンパイアに取り入って我々の戦功を上手いこと横取りするつもりではないのか?」
おっと。ここで急にフライブ君たちに矛先が向いてしまった。
うん。流石の俺もこんな子供たちを大人が罵倒するのなんて黙って見ていられねぇよ。
つーか、俺の友人を馬鹿にしたな?
「おい!」
次の瞬間、俺はキレてしまった
「ナメるな! ふざけんな! 調子に乗んな! 馬鹿にすんな!
おい、そこのアホンダラ! てめぇに言ってんだ!
今話してるのはお前たちの子供の未来だろ?
お前たちのことじゃない! 俺のことでもない!
俺が言っているのはお前らの子供の未来のことだろーがァ!?
俺が言っていることを今すぐ理解できない奴は種族とともに滅びろ! その程度の種族だってことだ!
城に保管してある歴史書に追記しといてやるわッ! “愚かな種族だった”ってなぁッ!
そうじゃなかったら今すぐ俺にかかってこい。歯向かうやつ全員始末してやる。つーかあったま来た! 今すぐ死ね!!」
そして俺は幻惑魔法を発動する。
下級魔族を全員殺すという強い意志。それを幻惑魔法によって相手の脳に深く刻み込んだ。
結果、相手は逃れられない死という絶望に震え、挙句は本当に死にそうな顔をしながらバタバタと倒れ始めた。
「タカーシ様? それぐらいで十分でしょう」
我を失うこと数分。魔力が切れかけたところでアルメさんが俺に話しかけ、俺は正気に戻る。
と同時に、目の前の光景を見て自分のやらかしてしまったことに気づく。
下級魔族のトップクラスおよそ300。皆倒れたままプルプルと震え、つーか失神しながら悪夢にうなされているっぽい。
でも俺がアルメさんの声に気づいて幻惑魔法を解くと、みんな徐々に意識を取り戻し、怯えながら俺に同意の気持ちを伝えてきた。
よし、これで結果オーライ!
もちろん、これは脅迫ではない。
平和な話し合いによって、第2関門突破だ!