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魔王軍出陣

俺はねこみみメイドたちのいる部屋に行き、状況を簡単に説明した。
「しかし、頭の教祖を潰せば、本当に止められますか」
当然の疑問を淫魔将軍が口にする。
「できるだろう。これまでの奴らの動きから、各々連絡を取り合っているのは間違いない。たぶん、神から授かった神器で連絡が取れるものがあるのだろう。当然、教祖のそばに、それがあるのは間違いない」
「それを押さえてしまえば、教祖の命令は届かなくなって敵の動きが止まると?」
「そうだ。できれば、教祖自身に中止命令を出させたい、お前の魅力でな」
俺は淫魔将軍を見た。
「はい、分かりました。教祖の篭絡はおませください」
彼女も自信満々にうなずいた。
で、俺は、王女の護衛に天使とねこみみメイドを離宮に残すことにした。
いくら暴徒でも天使の目の前で王女には手を出さないだろうし、天使の言葉で彼らを説得できるかもしれない。
神殿の総本山には、俺と淫魔将軍と吸血姫の三人で向かうことにした。たった三人だが、魔王である俺がいるので、立派な魔王軍だった。離宮からの出陣の前に淫魔将軍は身に付けていた武具の一部を外し、かなり肌を露出する身軽な格好になった。とても魔王軍の将軍には見えない、破廉恥な姿だった。
「ああ、軽くなった・・・」
淫魔としての能力を最大限発揮するための軽装だ。
そして、吸血姫は俺にささやいた。
「出陣前に、魔王様の血を・・・」
「ああ、いいぞ」
彼女には、淫魔将軍を乗せて敵総本山まで運んでもらうという大役がある。俺の血ぐらいいくらでもくれてやると、首筋をさらして見せた。
すると吸血姫は、その切なげな乳房を押し当てるように俺に抱きつき噛みついた。
「あら、まぁ」
淫魔将軍が驚くくらいエロい抱きつき方だった。吸血鬼は血を吸いやすいように獲物を虜にする能力があるというが、それの一つだろうか。
たっぷり俺の血を吸って満足したのか、頬を染めて俺から離れた。
「ほら、もう十分でしょ、離れなさい」
ねこみみメイドが面白くなさそうに俺と吸血姫との距離を広げる。
「さて、もう準備はいいな」
「はい」
出陣前に王女様に挨拶し、天使とねこみみメイドを預ける。近衛の騎士は、自分だけで十分という顔をしてさっさと行け邪魔だという視線を俺に送ったが、王女は俺の心配をした。
「魔王様、ご無事で」
「王女様こそ、お気をつけて」
近衛の騎士を含め離宮を守る兵士はいるようだが、外の民衆より、数が多いようには見えない。離宮などいうものは、本来保養地や別荘の類であり、敵に備えたものではない。外の暴徒が数に任せて突入してきたら大変なことになるだろう。天使とねこみみメイドがそばにいればうまくやってくれるとは思うが、ねこみみメイドの爪が血に染まる前に俺が、教祖を押さえればいい。
日が暮れて、外の暴徒は松明をかかげて離宮を包囲していたので、俺は堂々と離宮の正門から出ようとした。
「では、魔王様、お先に」
淫魔将軍を背中に乗せて吸血姫が飛び立つ。
「魔王様、また競争しますか」
「ああ、そうだな、褒美は魔界に帰ってからでいいか?」
「はい」
吸血姫は淫魔将軍を乗せて、わざと群衆に見えるように低空で飛び去った。
民衆に魔王とその一党が離宮を去ったとアピールすることで王女の身を少しでも安全にしたかったのだが、この手は伯爵家には通じなかった。臣民がいてもいなくても、魔王に手を貸した者は皆殺しにしたいというのが、神官連中の考えなのだろう。人間界と魔界どちらが邪教か分からんと思うが、とにかく王女のそばを離れようと正門に近づく。人が多い。「魔王に手を貸す王女に天罰を」と騒ぐ神官の声が俺の耳に届いた。騒がしいので、その大声の主に魔法の雷を落した。ゴロ、ピシャンという派手な音がして、門の向こう側が静かったになった。そして、門を守る衛士に門を開けさせて外に出た。俺が外に出ると再び門が閉じられて、門の前の黒焦げの死体を遠巻きにして民衆がいた。いきなり落ちてきた雷で神官様が黒焦げになったので、さすがの民衆も門から少し離れたようだ。
「おやおや、天罰をと言っていたご自身が天罰を食らったのかな。見事な焼き具合だ」
俺が白々しく陰惨な焼死体をさげすむ様に見ると、民衆から「魔王だ、あれが魔王だ」と声があり、投石が始まった。近づくのは怖いので石を投げる。そして、すぐに邪神様の鎧を身にまとった。すると、石が飛んできた分、邪神様の加護で痛みが跳ね返され、悲鳴も上がった。石を投げたら、投げ返されるのは当然だ。それこそ、真の平等であり、正しいから攻撃してもされ返されないなどというのは、厚かましい話だ。当然、投石は、すぐに止んだ。邪神様の鎧の前に人々が道を開ける。
邪神様の鎧を着て、堂々と人々の間を抜けて離宮を離れた。追って来る者もいなかった。所詮、信仰を利用されて行動を起こした民衆だ、命がけで魔王を倒そうと思っているわけではなく、さっさと鎧を脱ぎ、俺は全力で駆け出していた。ちょいと余計な手間をかけたので吸血姫よりスタートが遅れた。別に負けてもいいのだが、あまり遅れると魔王様だらしないと淫魔将軍になじられるだろう。
人間界で初めての全力疾走だった。

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