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勇者激突

人間界の大地を思いっきり駆けた。邪魔はない。
まっすぐに最短で敵の総本山を目指した。
吸血姫も全力で飛んでいるらしく、なかなか追いつかなかった。
そして、目の前にぽっかりと巨大な穴が広がった、思わず飛び出し、落ちそうになったが、風の魔法を起こして、自らを吹っ飛ばして、穴の反対側まで飛んだ。それにしても大きな穴だった。自然にできたのなら、水でも溜まって湖になっているはずだが、まるで、今さっき大地に開けられたような奇麗な穴だった。
これは、誰かが空間魔法で大地を削ったなと、それが人間界でできるのは、賢者だけだと、俺はすぐに察した。
なるほど、落とし穴か。こういう使い方は考えなかったなと、穴の反対側に無事着地しながら感心する。
こっちが最短で来ると読んで仕掛けたのだろう、たぶん近くにいるなと思ったら、火球が矢継ぎ早に飛んできた、魔導師の攻撃だ。だが、そのおかげで、位置が分かった。そちらに突っ込む。火球がいくら多くても躱すのはたやすい。魔法攻撃は基本単調であり、一度放たれると方向は変えられないからだ。
悪いが急いでいるんだ、瞬殺させてもらうと俺は魔導師と賢者に肉薄した。が、女戦士が行く手を塞いだ。咄嗟に魔剣と邪神様の鎧を召喚して、斬撃を受け止めた。
「魔王さんよ、こうしてまともに刃を合わせるのって初めてだよな」
恐ろしく速い剣さばきだった。しかも初めて見る二刀流で、鋭い斬撃を、辛うじて受け止めるが、何撃かは鎧で直に弾く、
たぶん、鎧がなければ、俺には無数の切り傷がつけられていただろう。それだけ速くて鋭い斬撃だった。しかも、邪神様の加護で返される斬撃の傷も賢者が絶え間なく治癒魔法を女戦士にかけることで、無効化していた。
「ははは、さすが、聖剣だ、勇者のほど威力はないが、身体がかるい!」
女戦士が自分に酔うように笑っていた。
「聖剣?」
確かに、人間界に神から授かった剣が勇者の一本だけとは聞いていない。しかし、その剣は、勇者のそれのように強烈な光の刃を飛ばすのではなく、持ち主の肉体を強化する加護があるようだ。
元々剣技には自信があるのだろう。それに聖剣の力がプラスされて、その二刀流でこちらを圧倒してくる。
キンキンキンと魔剣を削られるような打ち合いが続いた。
が、女戦士はズぼッと穴に落ちた。賢者の使い方を真似て試してみたが、
「なるほど、これは使える」
いきなり足元が消失して穴に落ちた女戦士の頭の上に、異空間に収納した土を戻して、そのまま生き埋めにする。
「うわ、ぁ、ああ・・・」
慌てて這い出てくる女戦士に魔剣の切っ先を向ける。
「負けました、魔王様! 私たちの負けです、見逃してください」
賢者が大声で、叫んでいた。躊躇のない降参だった。
それには魔導師に女戦士も当惑した。
「お、おい・・・」
魔導師が、困惑顔をする。
「負けを認めないと、彼女が殺されます、いいのですか」
俺の魔剣は、女戦士を狙って止まっていた。
「いいのか、素直に負けを認めて?」
「はい、この先の大神殿で教祖様とともに勇者が待っています。彼女も、私たちが勝てるとは思っていないでしょう」
俺は魔剣と鎧を異空間に戻し、賢者と対峙した。
「神殿の連中に命を狙われたのに、なぜ、いまさら俺に挑む」
「意地です。栄誉ある勇者の仲間に選ばれた者の意地と思っていただければ幸い」
「誇りというやつか?」
「はい、負けると分かっているから戦わないというのは、ひどく惨めな考えだと思いませんか、魔王様」
「そうだな。で、この先にいる勇者も、同じような覚悟で俺に挑むか?」
「多分、勇者としての意地を魔王様にお見せしたいのでしょう」
「よかろう。勇者の意地、見せてもらおう」
俺は、賢者たちをその場に残し、勇者が待つという大神殿を目指して、再び駆け出した。光の神殿の総本山の大神殿は、一つの山を丸々神殿にしたようなデカさだった。たぶん、最初は一つの神殿が山の中腹にあり、小さな神殿が周りにどんどん増殖して大神殿になったのだろう。俺が大神殿の入り口に着いた時には、ど派手な鎧を身にまとった四人の聖騎士と吸血姫と淫魔将軍が対峙していた。
「魔王様、今回は私の勝ちでしたね。それとも、この方たちがいるからわざと先を譲ったんですか?」
「まさか、何者だ、こいつらは?」
「我らは、この大神殿を守護する聖騎士なり! いかに魔王といえど、一歩も通さぬ」
「その派手な鎧も、神からの授かりものの神器ってやつか?」
「そうだ、神の威光の前に貴様はひれ伏すのだ」
「どんな攻撃も効かぬ加護がある鎧かな」
「だとしたら、どうする? 貴様の力が、この鎧に一切通じぬとしたら」
「直接攻撃しなければいいのだろ?」
「うわっ!」
一瞬、その聖騎士たちが消えたように見えたが、彼らの足元の地面が消えて四人まとめて穴に落ちたのだ。しかも、その重い鎧のため穴を這いあがれずに四人がガチャガチャと鎧を鳴らし惨めにもがいていた。
「く、くそ、卑怯な」
「いつの間に、こんな落とし穴を」
別に落とし穴ではなくても四人まとめて異空間に放り込んでも良かったが、さすがにそれは卑怯すぎるだろうと、女戦士の時と同様に穴に落した。
穴に落した方が、しっかり勝ったと確認できる。
空間魔法のことを知っているのは、賢者だけであり、自分たちの足元の地面が、別次元に消えたなどと分かるはずもなく、聖騎士たちは穴の中で大慌てでもがいていた。
落とし穴であっさり一網打尽にした俺を、吸血姫と淫魔将軍が呆れるようにみていた。たぶん、俺がここに着くまでの間彼らに苦戦していたのだろう。
「ほら、行くぞ」
穴の聖騎士たちを放っておいて、神殿の中に入る。
魔法の使える上級神官と時々戦闘になるが、その一人を淫魔将軍が虜にして、教祖様の部屋まで案内させる。順調だったが、
「魔王!」
聞き覚えのある勇者の声が響き、放たれた光の刃を紙一重で躱し、その勇者と対峙する。神竜相手に使った力をこの大神殿で補充したのか。きらめく聖剣と初めて見る立派な甲冑姿の勇者がそこにいた。
「おいおい、神殿、ぶっ壊していいのかよ」
凄まじい威力だが、外れた光の刃が大神殿の壁に大穴を開けていた。

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