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ヴィヴィアンの正体

 レティシアはヴィヴィアンにうながされ、広く豪しゃな廊下を歩いているとリカオンに声をかけられた。

「レティシア!良かった、帰って来たんだな。マティアスが、レティシアが帰ってこないとうるさくて、捜索隊を出すところだったんだ」
「それは大変申し訳ありませんでした。リカオンさまと王子殿下の愛馬をお預かりしたのに」
「ああ、イグニートを連れて来てくれてありがとう。マティアスもマックスに会いたがっていたが、それだけじゃないんだぞ?」
「?」

 レティシアはリカオンの言葉の意味がよくわからず首をかしげていると、ヴィヴィアンが少し強い口調で言った。

「リカオン。レティシアお嬢さまをお引き止めしないの。早く自分の仕事に戻りなさい」
「チェッ!わかったよ、ヴィヴィ」

 レティシアはヴィヴィアンとリカオンのやり取りを不思議そうにながめた。一体ヴィヴィアンは何者なのだろうか。ザイン王国の王子であるマティアスにもバルべ公爵令息であるリカオンにもとても親しげだ。

「そういやレティシア。その剣はこれから邪魔だろ?俺がペンダントにしてやるよ」

 レティシアの視線に気づいたリカオンが言った。レティシアの剣。剣の師匠であるヴィヴィアンが土鉱物魔法で作ってくれたのだ。

 レティシアはリカオンに言われるままに腰の剣を鞘から抜いて渡すと、彼はレティシアの剣の柄を握り込んだ。剣が光に包まれると、みるみる小さくなった。

 リカオンはレティシアの目の前で手をひらいた。そこには剣の装飾になっていたユリの花のペンダントが乗っていた。

「わぁ、綺麗」
「前にレティシアにあげた鎧と兜と一緒だ。剣になれと念じれば元の剣になる」
「ありがとうございます。リカオンさま」

 レティシアは小さなユリのペンダントを身につけた。ペンダントを見て微笑んだヴィヴィアンが口を開く。

「リカオンは武器の生成速度はいまいちだけど、細かな細工は上手なのよね」
「武器の生成速度は前より上がったってぇの。それに武器を貴金属にして持たせないと、マティアスもルイスもすぐに殺されちまってただろ?」

 リカオンは小さな子供がするようなふてくされた顔になる。レティシアは好奇心が押されられなくなって、ついに質問した。

「あの、ヴィヴィアン師匠とリカオンさまってどういうご関係なんですか?」

 レティシアの質問に、ヴィヴィアンとリカオンがきょとんとした顔になる。ヴィヴィアンが頬に手を当てながら困った顔で言う。

「あら、リカオン。言ってなかったの?」
「あれ?ヴィヴィも言ってなかったの?レティシア、俺たち見てわかんねぇ?ヴィヴィは俺の姉ちゃんだよ」
 
 リカオンの衝撃の発言にレティシアは大声をあげる。

「えっ?!ヴィヴィアン師匠とリカオンさまがご姉弟?!ヴィヴィアン師匠、いえバルべ公爵令嬢さま。とんだご無礼を」

 レティシアは慌ててヴィヴィアンに頭を下げた。何故気づかなかったのだろう。言われてみればヴィヴィアンとリカオンの容姿はとても似ている。真っ赤な美しい赤髪。切れ長の麗俐な目元。

 レティシアが青くなって頭をさげていると、ヴィヴィアンがクスクス笑ってレティシアの肩に手を置いた。

「今まで通りで大丈夫ですよ?レティシアお嬢さま。それに、お嬢さまは私の剣の弟子でもあるんです。だからリカオンもマティウスも貴女の兄弟子になるんですよ?師匠から見れば弟子は皆同じです」
「あ、ありがとうございます、ヴィヴィアン師匠」
「ですが、レティシアお嬢さまは、私の弟子の中で一番へっぽこです!常に剣に精進してください!」
「はい!全身全霊をかけて精進します!」

 レティシアが慌てて背筋を正すと、ヴィヴィアンは美しく微笑んだ。
 

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