レティシアの鎧
「マクサ将軍とゲイド軍がつながっていたという事は、この野営地もゲイド軍に囲まれているという事ですよね?」
レティシアの質問に、マティアスとリカオンが嬉しそうにうなずいた。まるで出来の良い生徒が満点の答えを出した時の教師のようだった。マティアスはニコニコ笑いながら言った。
「その通りだ、レティシア。ここはゲイド軍に囲まれている。これから反撃しなければな!」
「一体、どうやって?」
「うむ、地道に一人ずつ敵を倒す!」
「・・・」
マティアスはあまり戦術を考える事はしないようだ。見かねたリカオンが助け舟を出す。
「レティシア、あまり悲観するな。マティアスがいくらバカ王子でも少しは考えているぞ?この野営地は森の中だ。ゲイド軍が大軍で攻める事はできない。襲撃に来るとしても、少人数ずつ。我がザイン王国軍の兵士たちは三人の組を作って、ゲイド軍兵士の討伐にあたる。一人の兵士も死なせはしない」
「!。はい!」
リカオンは小さく笑ってからレティシアに質問した。
「レティシア。軍で支給した鎧は身につけていないのか?」
「す、すみません。重くて動きにくいのです」
「だろうな。だから俺がレティシアに鎧を作ってやるっていったのに。バカ王子が反対するらからさぁ、」
レティシアがマティアスを見ると、顔を真っ赤にして機嫌が悪そうだった。
「・・・。いい、リカオン。レティシアに鎧と兜を作ってやってくれ」
「最初からそう言えってぇの」
リカオンはレティシアの肩にポンと手を置いた。するとレティシアの身体が輝いた。
「わぁ、とても軽い」
レティシアの身体は、鎧に身を包まれていた。鎧はとても軽く、まるで身につけていないようだった。頭に手を触れると、しっかりとした兜をかぶっていた。これも重さは感じなかった。
「ありがとうございます!リカオンさま!」
『レティシア!かっこいい!とっても似合ってる!』
レティシアの肩に乗ったチップは嬉しそうにピョンピョン飛び上がった。
リカオンは笑ってから自分の胸を軽く叩いた。すると鎧と兜をまとった姿になった。
「わぁ、リカオンさまの魔法って、とっても便利ですね!」
「まぁな。戦場でしか役に立たないがな」
レティシアとリカオンを、機嫌悪そうに見ていたマティアスは、自身がしているバングルと指輪に触れた。すると驚いた事に、マティアスも鎧と兜を身にまとっていた。
「えっ?王子殿下も土鉱物魔法が使えるんですか?!」
「いいや、俺は風魔法だ。これはリカオンに作ってもらった」
リカオンがレティシアに向き直って言った。
「レティシア。鎧に触れて、解除と念じてみろ」
レティシアはよく意味がわからなかったが、言われた通りにした。鎧に左手を当て、心の中で解除と念じる。すると鎧は跡形もなく消え、左手には細身のバングルが現れた。次に頭部をおおっている兜に触れると、兜は消え左手の中指に細身のリングが現れた。
驚いて声も出ないレティシアに、リカオンは笑って言った。
「鎧と兜が必要無い時はバングルとリングになるからな。かさばらなくていいだろ?」
「はい!ありがとうございます!」
レティシアがバングルとリングに触れて、鎧と兜を着たり脱いだりしている横で、リカオンがマティアスの肩に肘を置いて小声で言った。
「なぁ、マティアス。レティシアのバングルとリングもマティアスのと同じデザインにしてやったからな。機嫌なおせよ」
「・・・。ふん、じゃあ許可してやる」
「素直におそろいだって喜べよ」
「うっさい」
リカオンとマティアスのやり取りを、バングルとリングに夢中なっていたレティシアは気づかなかった。