暗殺計画
その人物は立派な鎧を身にまとっていた。レティシアがしゃがみこんで確認すると、その人物はマクサ将軍だった。
恐る恐る口元に手を持っていくと、呼吸をしていなかった。マクサ将軍は絶命していた。
「ヒィ!」
レティシアは小さく悲鳴をあげた。テントの奥から誰かがやってくる。レティシアが腰の剣を抜いて構えると、そこにはマティアス王子が立っていた。両手には何故か兵士を二人ズルズル引きずっている。
兵士はザイン王国の兵ではなかった。ゲイド軍の兵士だ。レティシアが呆然とマティアスを見上げると、彼は困った顔をした。この場面をレティシアに見られたくなかったようだ。
「王子殿下、これは一体?マクサ将軍さまは、」
「・・・。レティシア。この状況を見られては誤解を招いてしまうな。貴女にはすべて話そう。これから話す俺の話を信じてくれるか?」
「はい!」
レティシアの返事に、マティアスはくすりと笑ってから手にしていた兵士を手放した。この二人もおそらく絶命しているのだろう。
テントの中に死体が三体。目の前には愛しい男性。まったくロマンティックではない。
「結論から言うとだな。マクサ将軍はゲイド国と手を組んでいた。マクサ将軍はここで俺を殺害しようとしていたのだ」
「えっ!?マクサ将軍は王子殿下の腹心だったではありませんか?!」
「正確には俺のおじ上の腹心だ。レティシアだって俺とマクサ将軍のやり取りを見ているだろ?俺たちめちゃくちゃ仲悪かったからな」
「・・・。では、王子殿下の暗殺を企てるという事は、」
「ああ。おじ上は俺を殺して、俺の弟の第二王子を次期国王としてまつりあげるつもりだったんだ」
「・・・。どうしてここにゲイド国の兵士がいるのですか?」
「おじ上はゲイド国とつながっているからな」
「!。では、今回のザイン王国へのゲイド国の進軍は、」
「ああ。おじ上がご丁寧に招き入れたのだ」
レティシアは唖然としてしまった。いくら甥が目障りでも、敵国と手を組むとは。レティシアとマティアスが話していると、リカオンがテントの中に飛び込んできた。
「マティアス!レティシアがいないぞ!」
リカオンはレティシアを確認すると、深いため息をついた。どうやらとても心配してくれたらしい。
「リカオンさま。ご心配おかけして申し訳ありません」
「いや。レティシアが無事ならいいんだ」
リカオンはテントの中を見回してマクサ将軍とゲイド軍の兵を一べつした。
「始末はついたみたいだな。マティアス、ちゃんと証拠は掴んだのか?」
「ああ。悔しそうな顔をしたら、悦に浸りながら話してくれたぜ?おじ上の名前とゲイド国王の名前をな」
「さすが!これまでマクサ将軍の前でバカ王子を演じていた成果だな!いや、演じてないか。バカは素だったな!」
「テメェ!リカオン!言わせておけば」
マティアスとリカオンはいつものようにじゃれだした。レティシアは大声を出した。
「マティアス王子殿下!リカオンさま!今はそんな話している場合ではありません!」
レティシアの言葉に二人はしゅんとなった。