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進軍

 レティシアたちは街を通るたびに馬を乗り換えゲイド国との国境まで走った。

 これはレティシアが視た未来とも同じだった。その時レティシアは、チップの容態が心配で馬車の中で震えていた。

 レティシアたちはついにゲイド国国境付近までたどり着いた。いつゲイド国軍と戦いになってもおかしくないため、レティシアたちは武装を解かずに仮眠を取る事になった。

 レティシアはテントの中で横になっていたが、眠気はまったくおとずれなかった。もうすぐレティシアとチップが死んでしまうかもしれない。

 レティシアはこの時のために必死に剣術を訓練したのだ。決して死なない、チップと共に生き残るのだ。そして、少しでもマティアス王子の力になりたかった。

 ザイン王国の王子の妻なんておこがましい事は考えてはいない。ただマティアス王子の心に、戦争の時に役に立った部下がいなたとわずかでも思い出してもらえれば十分だった。

 レティシアは仮眠を取る事をあきらめ、身体を起こした。

『レティシア、寝ないの?』
「チップ。起こしてごめんね?少し外の風に当たってくるわ」

 付き合いのよいチップは、レティシアの夜の散歩についてきてくれた。レティシアはチップを肩に乗せてテントの外に出た。レティシアの周りにはたくさんのテントが設営されていた。

 もの音一つ立ててはいなかった。皆わずかな時間を休息にあてているのだろう。マティアス王子についてきた騎兵隊二百騎は、選りすぐりの兵だった。

 たとえゲイド軍と兵士の数では勝てなくても、戦いでは負けないだろう。

 レティシアの頬に冷たい風が当たる。レティシアは何気なく夜空を見上げた。そこには未来で見たあの三日月がのぼっていた。

 レティシアはギクリと身体をこわばらせた。この日レティシアは命を落とすのだ。ゲイド軍の兵士によって無様に殺されるのだ。

 これからマティアス王子のテントに行けば、マクサ将軍と会話しているところに行き当たるだろう。

 レティシアは未来の予知夢を何度も何度も思い出していた。レティシアはゲイド軍によって早々に殺されてしまうが、マティアスたちはどうなったのだろうか。

 きっと予期せぬ敵の襲撃に、相当な痛手をこうむった事だろう。もしかしたら、マティアス王子も殺されてしまったかもしれない。

 マティアス王子にはリカオンが側にいてくれる、きっと大丈夫だ。レティシアはそう心では思いながらも、自分の目でマティアス王子の無事を確かめたかった。

 一目無事な姿が見られれば、心置きなくゲイド軍との戦いにのぞめるだろう。


「マティアス王子殿下!レティシアです、失礼いたします!」

 レティシアはマティアス王子のテントに到着すると、大声で名を名乗って入った。

 そこでレティシアが見たものは。レティシアは驚きのあまり悲鳴をあげてしまった。

「キャァ!」

 レテシアの目の前に誰かがうつ伏せに倒れていた。
 

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