ヴィヴィアンとの別れ
レティシアは剣を構えていた。木剣ではない、真剣だ。人に向ければ命を奪う事もできる。
レティシアの腕に責任の重みが感じられる。レティシアは呼吸を整えると水魔法を発動させた。レティシアの生成した水魔法はクルクルと螺旋を描きながら剣にまとわりついた。
レティシアの水の剣だ。レティシアの見つめる先にはヴィヴィアンが作った木製の的。水の剣でこの的を壊そうというのだ。
レティシアは水の剣を水平に斬った。水の剣から、鋭い水の流れが出現し、木の的をすべて破壊した。
「お見事です!お嬢さま!」
『やったね!レティシア』
チップを肩に乗せたヴィヴィアンがレティシアに駆け寄ってきた。チップとヴィヴィアンは仲良しになっていた。
「ありがとうございます。師匠、チップ」
レティシアは肩で息をしながら答えた。水の剣を放つと、魔力を激しく消耗し、身体がバラバラになりそうなほど疲労してしまう。これからも訓練が必要だ。
ヴィヴィアンは肩に乗ったチップを優しく抱き上げ、レティシアの肩に乗せた。
「レティシアお嬢さま。もう私に教える事は何もありません。これからはお嬢さまとチップ二人で水の剣の向上を目指してください」
「ヴィヴィアン師匠、ご指導ありがとうございました!」
ヴィヴィアンはとびきりの美しい笑顔で微笑んだ。
「レティシアお嬢さま。私はしばらくこの地を離れます」
「?。師匠はザイン王国の戦争に参加されないのですか?」
ザイン王国では、国の有事の際には力のある者は戦争に参加が義務づけられている。ヴィヴィアンほどの手練ならば城からの要請があると思ったのだが。レティシアの疑問の表情を読み取ったのだろう。ヴィヴィアンは笑って答えた。
「お嬢さま。私の剣の師匠はいつも申しておりました。人を殺す剣士になるな、人を生かす剣士になれと。私の剣は、弱き者を守る剣。レティシアお嬢さまと同じ志です。最後にレティシアお嬢さまのような弟子を持てた事を幸せに思います」
「ヴィヴィアン師匠、」
「最後にお嬢さまに受け取っていただきたい物がございます」
ヴィヴィアンはそう言って、自身の両手を握りしめる仕草をした。すると彼女の手が輝きだし、手には細身の剣が握られていた。
「わぁ、綺麗」
ヴィヴィアンの持つ剣はツバとつかに精緻な花の模様が刻まれた銀色の美しい剣だった。ヴィヴィアンはレティシアに剣を手渡した。その剣はとても軽く、何も持っていないようだった。
「お嬢さま。この剣は私の土鉱物魔法で生成した剣です。戦場できっとお嬢さまとチップを守ってくれるでしょう」
「ありがとうございます、師匠。弟子として貴女の恥にならないよう精進します」
その日ヴィヴィアンはレティシアの元を去っていった。レティシアは師匠であるヴィヴィアンが去った後も毎日欠かす事なく剣の訓練を続けた。