訓練2
レティシアの剣術訓練は熾烈を極めた。レティシア本人が運動音痴な上、これまで食事をしてこなかったせいでとても痩せていたからだ。
レティシアは地獄のような訓練の間、無理矢理食事を取らされた。あまりの身体の疲労のため何度も食事を吐き戻してしまった。
その度に食事を増やされ、ヴィヴィアンにサンドイッチを口の中に押し込まれた。
レティシアは体力増強と剣術の訓練を同時に行わなければいけないので、体力が尽きて何度も倒れた。そのたびにチップが回復魔法をしてくれた。
そんな生活が三ヶ月ほど続いた後、ヴィヴィアンが美しい笑顔をたたえて言った。
「レティシアお嬢さま。お嬢さまはやっと、へなちょこ兵士ほどの力を身につける事ができました」
レティシアがヴィヴィアンとの木剣の打ち合いで、ヘロヘロになり仰向けに倒れていた時の事だった。
「あ、ありがとうございます。師匠のご指導のおかげです」
「とは言っても、お嬢さまがこのまま戦場に行けば、秒で殺されてしまいます」
「・・・。秒、ですか」
「ええ。正直言って、レティシアお嬢さまには剣術の才能がありません。それを無理矢理指導しているので、私にも限界があります。お嬢さまが他の剣士よりも強みを持っていればよいのですが」
「強み、ですか」
レティシアの強みとはなんだろう。レティシアは霊獣チップの契約者だ。チップは水魔法でレティシアのお願いを何でも叶えてくれる。レティシアがすごいわけではない。レティシアができる事といえば。
『レティシアの水魔法を強化すればいいんじゃない?』
レティシアとヴィヴィアンの訓練をのんびり見ていたチップが言った。
レティシアの魔法属性は水。レティシアはわずかだが水魔法を使う事ができるのだ。
といっても魔力は弱く、手のひらに水を溜めるのが精一杯だ。レティシアはチップの言葉をヴィヴィアンに伝えた。
「水魔法ですか。お嬢さま、やってみせていただけますか?」
レティシアはうなずいて両手のひらに魔力を集中させた。
淡い光と共に、レティシアの手の中に水があふれ出た。
「わぁ、水魔法が強くなっている!」
驚いているレティシアに、肩に飛び乗ったチップが得意そうに言った。
『水魔法が強化されてて当然さ。何たってレティシアは厳しい剣の修行に耐えたんだから。魔法の源は精神力の強さ。それを補うのは体力。レティシアは剣を訓練しているうちに、はからずも魔力も向上させたんだよ。それに契約霊獣である僕がいるんだ、レティシアの魔法のコントロールを手伝ってあげるよ』
「ありがとう、チップ」
レティシアの水魔法の向上。もしかするとレティシアの助けになってくれるかもしれない。
「素晴らしいです、レティシアお嬢さま。お嬢さま、その水を操る事はできますか?」
いつになくヴィヴィアンがはしゃいだ声で言う。レティシアはうなずいて手のひらの水に意識を集中した。水はゆっくりとだが、レティシアの意思により動き出した。
「これはいけるかもしれません。私の弟子に風魔法を操る者がおりました。その者は風魔法を剣にまとわせ、風の剣として戦場で戦いました。お嬢さまなら水魔法を剣にまとわせて水の剣を習得する事ができるやもしれません」
「師匠!よろしくお願いします。私に水の剣の指導を」
「はい。私と弟子が風の剣を完成させた時は、手探りの状態でしたが、私にも経験があり、しかも水の霊獣がサポートしてくれているのです。きっと完成させましょう」
それからレティシアの剣術の訓練は、レティシアの足りないところを補うため水魔法の剣の訓練に当てられた。