ザイン王国軍対イグニア軍
レティシアはブルリと身体を震わせた。見渡す限りの平地に、五百ものザイン王国軍に対して、三百ほどのイグニア軍。
兵士の数からしてザインの方が優勢だが、イグニア軍には大勢の魔法使いが行軍しているという情報が入っている。油断するわけにはいかないのだ。
レティシアは大きくなったチップに乗り、前線で指揮を執るマティアス王子の元に行った。
「王子殿下!進言したい事がございます!」
「レティシア!あなたは軍の最後尾にいてくださいと言ったではありませんか?!早くここから下がってください!」
馬に乗り、鎧を身にまとったマティアスは凛々しい姿だったが、レティシアを見た途端顔をしかめた。
レティシアの胸がズキリと痛む。ひるんでいるわけにはいかない。
「チップが申すには、対するイグニア軍の兵を一瞬で仕留める策があるというのです」
「本当か?!」
レティシアは無言でうなずいてから、マティアスたちの前に立った。チップの身体はスルスル小さくなり、レティシアの足元にちょこんと立っている。
イグニア軍もザイン王国軍の動きを見て、何かしかけてくると感づいたのだろう。
イグニア軍率いる将軍の前に、フードを着た数人の者たちが現れる。おそらく魔法使いだろう。魔法使いたちが一斉に呪文を唱える。
「チップ!」
『オッケー!』
チップは可愛い前足をちょいとふる。するとどこからともなく大量の水流と暴風が出現し、まるで台風があらわれたのうに目の前を荒らしつくした。
後に残ったのは、地面にくずおれるイグニア軍たちだけだった。
ザイン王国軍は勝どきの声をあげた。
「ザイン王国ばんさい!レティシアさまばんざい!」
レティシアは怒号の響く中、マティアスに必死にお願いをした。
「王子殿下!霊獣チップは争いを好みません!どうかイグニア軍の兵士たちを無傷で捕らえてください!」
マティアスは驚いた顔をしたが、一つうなずいて部下たちに指示を与えた。
レティシアたちはイグニア軍との戦いに勝利した。イグニア国王は公式文書にサインをし、ザイン王国の属国となった事を宣言した。
イグニア国王から、ゲイド国王との密約を聞き、マティアス率いるザイン王国軍は速やかにゲイド国の国境まで移動しなければならなかった。
移動にともなう食料や物資はイグニア国から徴収し、ゲイド国まで急いだ。