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レティシアの不安

 ゲイド国の国境まで向かう道中、レティシアはかつてない不安にかられた。

 心を通わせている霊獣チップの魔力が急激に弱っているのだ。

「チップ!チップ!大丈夫?」

 チップはレティシアの手の中で丸くなっている。

『大丈夫だよ、レティシア。心配しないで?ちょっと魔力を使い過ぎちゃった。少し休めば大丈夫だから』

 レティシアはチップの言葉にしたがうしかなかった。

 レティシアは行軍を始めてから、初めて馬車に乗った。チップを少しでも休ませたかったからだ。

 ガタガタと揺れる馬車の中、レティシアはチップが早く回復するようにとひたすら祈っていた。

 ゲイド国への国境に近づいても、チップの体調はよくならなかった。不安が最高潮に達したレティシアは、チップに泣きついた。

「チップ、チップ。どうすればあなたは元気になるの?!」
『・・・。僕は水属性の霊獣だから、水辺に行きたい』
「それなら、私を気にしないて行ってきて?人間の私が着いていくのは難しいけれど、チップ一人ならすぐに行ってこられるでしょう?」
『それはダメだ!こんな危険な所にレティシア一人でいさせるわけにはいかない』

 それはレティシアも危惧していた事だ。レティシアは霊獣チップが守ってくれるから戦場にいられるのだ。もしチップのいない時に何か起きれば、力の弱い女性のレティシアではひとたまりもないだろう。

「それなら私もチップと一緒に行くわ。王子殿下に頼んでみる」
『・・・。それなら、いい』

 チップが納得してくれたので、レティシアはマティアスに話に行こうと、馬車を運転する兵士に言った。マティアスのいる場所まで連れて行ってほしいと。兵士は無言でうなずき、馬車は隊列を外れて歩兵の横を高速で走った。

 もう少しでマティアスのいる軍隊の最前までいけそうだった時、マクサ将軍に止められた。

「レティシアさま。一体どこに行くおつもりですか?」

 マクサ将軍は、マティアス王子の右腕のような人物だ。そして、レティシアの事をよく思っていない。

 レティシアは仕方なくマクサ将軍に事の次第を話した。霊獣チップの体調がすぐれない事。わずかな時間でもいいから、ザイン王国軍から離れて水辺で休憩したいと。マクサ将軍は大きなため息をついた。

「はぁ、これだからご令嬢は。軍とはわずかなひずみから総崩れを起こすのです。貴女の軽率な行動がザイン王国軍をゆるがしかねないのですよ?!」
 
 マクサ将軍に押し切られる、レティシアとチップは軍の最後尾に戻されてしまった。

 


 

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