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真実

 その日の野営地は森に囲まれていて、兵士たちは各自バラバラになって野営をしなければならなかった。

 チップの状態はますます悪くなる一方だった。レティシアは仕方なくチップを優しく抱きしめながらテントの外に出た。空には美しい三日月が輝いていた。

「綺麗、」

 レティシアは思わずため息をもらした。そこである考えがひらめいた。マティアス王子のテントまで行ってみようと。

 ここ最近マティアスがレティシアのテントに来てくれる事はなくなっていた。ゲイド国の攻撃に間に合わせるために仕方のない事だと思ってはいた。

 だがレティシアはマティアスに一目だけでも会いたかった。

 マティアスのテントは、部下たちが報告に来たり、会議をするためレティシアのテントよりも大きかった。レティシアがテントの側に立つと、中から話し声が聞こえた。この声はマクサ将軍だ。

「まったく、レティシアさまにも困ったものです。軍を乱すとは、やはりご婦人を戦争に連れて行く事は間違いです!」
「ああ、」

 どうやらマクサ将軍は、マティアスにレティシアの事を話しているようだ。マクサ将軍の言葉に、マティアスは同意していた。

 マティアスはレティシアをうとましく思っていたのだ。それは薄々気がついていた。

 結婚式を挙げたというのに、レティシアとマティアスは寝室を共にする事はなかった。しかもマティアスはレティシアと結婚したというのに、ザイン国王にはなってはいない。

 ザイン王国では、国王の条件として妻を娶っている事があげられる。マティアスはレティシアと結婚をしたのに、国王にはなってはいない。つまりレティシアとの結婚自体、戦争に勝つための手段でしかないのだ。

「それにしても、レティシアさまもおめでたいですな。男爵令嬢風情が王子の花嫁になれるなどと、普通に考えればわかる事なのに。王子は戦争から凱旋されたあかつきには、トレント公爵令嬢との結婚される事になっていますからな」
「ああ、」

 レティシアは頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。レティシアは騙されて戦争に連れてこられたのだ。知らずに涙がボロボロと頬を伝った。

『レティシア、どうしたの?何が悲しいの?』

 手の中のチップが弱々しい声で言った。

「ごめんね、ごめんねチップ。私、間違ってた。今すぐここから出よう。それで水辺を探そう」
『レティシア、王子はいいの?』
「うん。チップの言う通りだった」

 レティシアは森の中を走った。そこかしこにザイン王国軍の兵士のテントがあるので、兵士たちに気づかれないようにすり抜けた。

 

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