バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

チップの魔法

 レティシア部屋に帰っても眠る事ができなかった。チップと契約できた事が嬉しくて仕方なかったからだ。

「チップ、私怖いわ。朝起きてもしあなたと契約したのが夢だったらと思うと」
『大丈夫だよ、レティシア。僕はいつも君の側にいるんだから』
「・・・。うん、」
『どうしたの?レティシア。何か心配事でもあるの?何でも言って?僕が解決してあげるから!』

 チップに強く言われ、レティシアはメグやメイド長に辛く当たられる事を話してしまった。可愛らしいチップの顔が険しくなる。

『何なの?!そいつら!ようしわかった。朝になったらそいつらを僕がボコボコにしてやるからね!』
「!。ちょっと待って、チップ。暴力はいけないわ」
『うふふ。レティシアは優しいなぁ。そんな所も大好きだよ。それじゃあ、できるだけ穏便に事を済まそう』

 チップはそう言って、前脚をチョイチョイと動かした。するとチップの前に水鏡が出現した。水鏡は穏やかな水流の円を描いていた。

「わぁ、綺麗。これ、チップの魔法なの?」
『えっへん。僕は水属性の霊獣だから、水攻撃魔法も水防御魔法、水治癒魔法だって使えるんだ。だけど僕の魔法で一番すごいのは、未来を視る水鏡魔法さ!』
「未来を視る事ができるの?すごい、」

 レティシアは思わず感嘆のため息をもらした。未来が視えるというのならば、レティシアの将来の結婚相手も視えるのではないかとドキドキした。

 レティシアの表情から察したのか、チップが補足した。

『未来といっても、僕と僕の近しい者つまりレティシアの未来だけだけどね。それに、未来ってちょっとした事ですぐに変わってしまうから、僕は次の日の出来事の未来しか視ないんだ』
「ちょっとした事で未来は変わってしまうの?」
『ああ。未来ってとても繊細なのさ。レティシアがくしゃみをしたかしないでも変わってしまうんだ。レティシアがくしゃみをした未来と、くしゃみをしなかった未来ができてしまう。まぁ、大まかな未来は変わらない事が多いけど、小さな未来は刻々と変化するよ。その小さな未来の積み重ねで、未来は大きく変わる事にもなるんだ』

 レティシアはチップの話しが難しすぎてよくわからなかったので、ふうんとうなずくだけにとどめた。

 レティシアと話しをしながら、水鏡を視ていたチップが声をあげた。

『わぁ、レティシアが大きな花瓶を持って歩いてる。危なっかしいなぁ』

 そういえば、メイド長に命令されていた。廊下の花瓶を変えるようにと。男爵家では季節に合わせた家具や美術品を飾っている。大きな飾り花瓶を広間に飾るように言われていたのだ。

『あっ!何?この女!レティシアに足を引っかけて転ばせた!』
「ひぇぇ!高価な花瓶を割ってしまったら、私懲罰房行きだわ!」

 レティシアが未来に戦慄していると、チップはニヤニヤ笑った。

『大丈夫だよ、レティシア。明日僕の言う通りにすれば』

しおり