チップの魔法2
翌朝レティシアは暗たんたる気持ちで目を覚ました。今日大きな花瓶を持っている時に、メグに足を引っかけられて花瓶を割ってしまうのだ。
肩に乗ったチップがレティシアの頬に顔を擦り付けながら言った。
『大丈夫だよ?レティシア。僕が守ってあげるから』
「ありがとう、チップ。大好きよ」
『うふふ。僕も大好き』
レティシアは昔の事を思い出して少し笑った。レティシアは小さな頃、いつも母であるクロエに言っていたのだ。
おかあさん、大好き。母のクロエは美しく微笑んで答えてくれた。
レティシア、お母さんも貴女がとっても大好きよ。
微笑むレティシアをチップは幸せそうに眺めて口を開いた。
『レティシア、誕生日おめでとう』
「?。ありがとう、チップ。だけどどうしてチップが私の誕生日を知っているの?」
チップはギクリと身体を震わせてから、胸をそらして答えた。
『それは、僕が高貴な霊獣だからさ。さぁ、レティシア支度して?遅刻しちゃうよ?』
「あっ!そうだった!」
レティシアは慌ててメイド服に着替えた。誕生日を祝ってもらったのは、母のクロエが亡くなって以来だった。レティシアは胸がポカポカあたたかくなるのを感じた。
「ううん、ううん」
『ほら、がんばって?レティシア。ちゃんと歩かないと一人でころんじゃうよ?』
レティシアは予知の通り大きな花瓶を抱き抱えて歩いていた。こんな大きな物を一人で抱えて運べだなんて。きっとメイド長の嫌がらせなのだろう。
チップはレティシアの肩にのって、がんばれがんばれと応援してくれる。その姿が可愛くて思わず顔がニヤけてしまう。
ちょうど廊下の角にさしかかった時、チップが叫んだ。
『レティシア!左に大きく動いて!』
レティシアはチップの言われるままに、よいしょと左側に大股に一歩歩いた。その直後ドシンという大きな音と、ガチャンというカン高い音が廊下に響いた。
レティシアが大きな花瓶を廊下に置いて音の方を見ると、メグが仰向けに倒れていた。側には粉々に割れたティーセットのなれの果てが散らばっていた。
「キャァ!旦那さまの大事なティーセットが!レティシア!あんたのせいだからね!あんたが怒られなさいよ!」
メグは自分で転んでティーセットを割ったくせに、訳のわからない発言をする。
レティシアはメグをさげすんだ目で見下しながら言った。
「メグが自分で転んでティーセットを割ったのよ。貴女が怒られなさいよ」
「貴女たち、何を騒いでいるの!」
レティシアとメグの言い合いに気づいたメイドたちがメイド長を呼んできたようだ。悪魔のような形相のメイド長が立っていた。