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召喚士

 レティシアが屋敷の裏手に出ると、外は真っ暗だった。唯一月だけがレティシアをぼんやりと照らしてくれていた。

 レティシアは母の本に目を近づけながら、苦心して地面に魔法陣を描きあげた。間違っていてはいけないと、何度も何度も見返した。

 レティシアは大きく深呼吸しながら魔法陣に手を置いた。もし召喚の儀式をおこなっても、霊獣が出てきてくれなかったらどうしよう。レティシアは、召喚士になれるという母の言葉だけを心の支えにしてこれまで生きてきたのだ。

 もし何も起きなければ、レティシアはこれからどうやって生きていけばよいのかわからなかった。

「森羅万象の清きものよ、我の求めに応じて聖なる姿をあらわしたまえ」

 レティシアが召喚の呪文を言い終えた途端、魔法陣がまばゆく輝き出した。あまりのまぶしさに、レティシアはきつく目をつむった。

『僕を呼んだのは君?』

 誰かの声に、レティシアは驚いて目を開いた。そこには可愛らしいシマリスがいた。だがただのシマリスではない、背中に小さな翼が生えている。霊獣だ。

「わぁ、可愛い、」

 レティシアは思わずひとり言を言ってしまった。

『うふふ。そうでしょ?僕はとっても可愛いの!』

 リスの姿をした霊獣は、嬉しそうにクスクス笑った。そこでレティシアはハッとした。霊獣との契約は対価を聞かなければいけないのだ。

 霊獣の要求する対価を召喚士が満たす事ができれば契約は成立するのだ。レティシアはゴクリとツバを飲み込んで言った。

「清く偉大な霊獣よ。あなたの対価は何ですか?」
『対価?ううん、そうだなぁ。じゃあ、一日必ず一回は僕の事好きって言ってよ。できる?』
「!。ええ、できます!」
『それなら契約成立だ。真の名の契約にうつるよ?僕の名前はチップ。君の名前は?』
「はい、チップ。私の名前はレティシアです」
『レティシア。真の名によって契約する。僕が生涯君を守るよ』
「あ、ありがとう。チップ、」

 チップとレティシアを強い光が包み込んだ。光はやがて消え、夜空には淡い月の光が輝いていた。

 僕が生涯君を守るよ。チップの言葉に、レティシアは鼻の奥がツンとなった。目からは涙がポロポロとこぼれ落ちた。

『レティシア?どうしたの?悲しいの?』
「ううん、違うの。チップがずっと一緒にいてくれるって約束してくれたから、私、嬉しくて」

 チップはびっくりした顔から嬉しそうな笑顔になった。

『約束するよ。僕はレティシアとずっと一緒にいるよ』
「嬉しい、チップ。大好きよ」

 レティシアは泣きながらチップの前に手を差し出した。チップはレティシアの手に乗り、スルリと肩まで登っていった。

 レティシアは肩に乗っているチップに頬をすり寄せた。

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