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弐章「継続は力なり」ノ漆

「【真・継続は力なり】――解・放!」

 バルムンクは立ち上がる。その右手には、彼の得物である刃渡り一メートル五◯センチの大剣がある。
 まばゆい輝きを身にまとったバルムンクが、横薙ぎに剣を振るった。
 たったそれだけのことで、小男の体が真っ二つに分かたれ、その背後にある森が消滅した。
 一瞬遅れて、パァンッという音と衝撃波。

「…………え?」どちゃっ、という音とともに地面に叩きつけられた小男が、依然として立ったままの己の下半身を見て、茫然となった。

「なっ!?」慌てた大男が、伊能の首をへし折ろうとする。

 が、それはできなかった。
 音速超過で動くバルムンクが大男の背後に到達し、大男を脳天から股下まで一刀両断し終わっていたからだ。


   ◆   ◇   ◆   ◇


「……イノーちゃん、イノーちゃん!」

「――はっ!? げほっ、げほっ」

「イノーちゃん、ゆっくり息を吸って」

「ひゅーっ、ひゅーっ、すーっ」バルムンクに背中を撫でられながら、伊能は呼吸に集中する。「はぁ~……もう、大丈夫ですじゃ。助けられてしまいましたのぅ」

「それはこちらのセリフよォん」

 伊能は消滅した森を見て絶句し、それから刺客たちの亡骸を見て口をつぐんだ。

「……ごめんなさいね」伊能の内心を読み取ったのか、バルムンクが静かに言う。「コイツらは暗殺者よ。生け捕りは無理だった」

「……分かっておりますじゃ。それよりもっ」沈鬱な気持ちを振り払うように、伊能はバルムンクに詰め寄る。「その傷っ、大丈夫ですか!?」

 バルムンクは顔面血だらけなのだ。

「あぁ、コレ? 額を切られちゃったみたいでェん。出血は派手だけど、傷はそんなに深くないから。大丈夫よォん」

「すぐに手当てをせねば。ええと、水と包帯は――」

 バックパックを引っくり返し、バルムンクの治療に専念する伊能。止血が終わり、一息ついたところで、伊能はガマンしきれずに尋ねた。

「バルムンク殿よ、その力、なにゆえ隠しておったのじゃ?」

「だってェ~ん」バルムンクが恥ずかしそうにクネクネする。「頼れる上官は、ナチュラルボーンでないと。異能至上主義のこの国じゃァ特に、ネ」

「そういうものですかな。バルムンク殿、ずいぶんと疲れている様子ですが、立てますか?」

「ごめんなさいねェ。この力を解放すると、反動が、ちょっと、ね」

 立ち上がろうとして、バルムンクはよろけてしまう。慌てて伊能が支えようとするが、体格が違いすぎて、支えきれない。

「を、を、ををを?」

「あら、あらあらあら」

 そのまま男二人してよろけているうちに、そばにある崖の端まで来てしまった。後ろに下がったはずの伊能の足が、空を切る。

「うおおおおあああああああ!?」

「あ~れ~~~~!」

 男二人、あるいは銀髪碧眼美少女と筋肉モリモリモヒカンオネェの二人組が、さらなる崖の下へと落下していった。

【踏破距離:一、五九六キロメートル】

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