26
到着した救急車に乗り込む彼女に付き添い、最後に伝えた。「もう、いないから。安心して」
周りの目もあり、具体的な発言は避けたけど、彼女は理解していた。
最後に一言、ありがとう、と。
彼女を見送った後、早坂さん達の元へ駆け寄る。「早坂さん、今ダッシュでバスタオルと着替え持ってくるんで待っててください!」
早坂さんは救急隊員が差し出したバスタオルを辞退していた。
走りかけた腕をグッと掴まれる。先程までの早坂さんとは違い、険しい表情だ。
あれ、──怒ってる?
「雪音ちゃん、さっきの事だけど・・・1人で突っ走っては、ダメよ」初めて聞く、真剣な低い声だった。
「・・・あ、ごめんなさい・・・」
「あたし達もいたのよ?」
「・・・ごめんなさい。足が、勝手に動いちゃって・・・」
早坂さんは、深い溜め息を吐いた。「わかるわよ、あなたの性格を考えると。でも、もう少し、落ち着いて周りを見てちょうだい。あのまま飛び込んでたら、どうするつもりだった?」
「・・・考えてませんでした」
更に重い溜め息に変わる。「あなたにはまだ、対処出来ないわ。だから、無茶をしてはダメ。これからは、あたし達がいる事を忘れないで。いいわね?」
「・・・はい。すみません」わたしは、馬鹿だ。何も出来ないくせに、勝手に突っ走って、最後には迷惑をかけるくせに。自分に嫌気がさす。
「わかったのならいいわ」頭に乗る、大きな手。早坂さんは優しい顔に戻っていた。
「中条、100メートルは何秒だ?」
「今その話必要かしら!」
「お前、すぐに追いつけなかっただろ。かなり速いタイムのはずだ」
「だから今聞くことかしら!」
「じゃあいつ聞けばいいんだ」
プッと噴き出し、ハッと思い出す。「早坂さん、今バスタオルと着替え持ってきますから!」
「着替えって、誰のだ?男物あるのか?」冷静な瀬野さん。
「・・・わたしのです」
「入るのか?」
「・・・伸びたシャツがあるんで!それならもしかしたら!」
「下は?」
「・・・伸びたスウェットがあるので、入ります!」
「丈は?」
「・・・アウトですね!」
早坂さんが、ハハッと笑った。「ありがとう。でも大丈夫よ、こんな時のために車に着替え積んでるから」
──そうそうない状況だと思うが。「よかった・・・」