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「では、僕から君に話が・・・いや、頼みがあるんだが、聞いてくれるかい?」
ほら、やっぱり。自分でも、なぜこんな感情になるのかわからない。
「はい」
「僕はね、ある妖怪を探しているんだ」財前さんは右腕をテーブルに置き、着物の袖を捲り上げた。上腕全体を覆う赤黒いアザに、思わず顔をしかめる。「これは、その妖怪によってつけられたものだ。不気味だろう」
「前に見た時より、広がってるな」瀬野さんの言葉に早坂さんが頷く。
「これは僕を蝕み、いずれ身体全体に広がる」
「・・・どうなるんですか?」
「我を失い、醜い化け物へと変わり、人を喰い殺すだろう」
ごくりと唾を呑んだ。「治らないんですか?」
「方法は1つ。これをつけた者を始末することだ」財前さんは袖を下ろし、その手を左袖に通した。「だが、そう簡単にはいかなくてね。その者が今何処にいるのか、どんな姿をしているのかわからない」
「どんな姿・・・?」
「あやつは元々、大蛇の妖怪なんだ。人を呑み込み、その姿に化ける」
「人間の姿に化けるってことですか?」
「そうだ。数ヶ月に1度、大蛇の姿に戻り、脱皮するんだ。そしてまた別の人間を喰らい、姿を変える。あやつが人を喰らうその近くには皮が残されているんだ」
その場面を想像するだけで、身震いする。
「数日前も、ある山中で3メートル程の巨大な皮が見つかったと情報を得て向かったんだが、空振りに終わったよ」
「・・・あの、蛇の姿に戻ると、それまで化けてた人はどうなるんですか?」
財前さんは、言葉を選んでいるようだった。「自分の中に取り込むんだよ。それは物体だけじゃなく、その人物の記憶までね」
「記憶・・・ですか?」
「記憶、知識、全てだ。だから、その人物になりきれる。そうやって人間の世界に上手く溶け込んでいるんだ」
「言ってしまえば、取り込んだ人の数だけ賢くなれるってことね」早坂さんが言い、財前さんが頷く。
「そんなことが・・・」現実に起きていると思うと、背筋が凍った。完全に理解の域を超えている。