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「何か、聞きたいことはあるかい?」
突として聞かれ、返答が出来なかった。聞きたいこと、聞かなければならないことがあるはずなのに、頭が働いてくれない。
「あの・・・」何か言わなくては──「食べ物は、何を食べてるんですか」
すぐに後悔したが、時すでに遅し。最初に早坂さんが笑い、釣られたように財前さんも笑った。瀬野さんはやはり、呆れ顔だ。
「本当におもしろい子だ。食べ物か。普通の人間と同じ物を食べているよ。当たり前にお腹も空くしね」
「・・・なるほど」驚きはない。財前さんは何処をどう見ても普通の人間にしか見えない。
「ただし、睡眠は必要ないんだ」
「え、そうなんですか?」
「ああ、生まれて此の方、眠いと思ったことがないよ。腹は空くのに、おかしいだろう?」
「確かに」無意識の発言に自分で焦った。「すみません」
「雪音ちゃん、僕に対して気を遣う事はない。腹を割って話そうか」
2回、頷いた。1つは感謝を表して。
「最初に目が合った時、確信を得たよ。君は僕にも耐えられる存在だと」視界の隅で、早坂さんが頷くのがわかった。「僕は、君を試したんだ。この悍ましい力に耐えられるか、自分を保つことが出来るか。僕を前にして、正常でいられるのか」
「・・・それは、何か、力を使ったということですか?」
「そうだ。感じたかい?」
「はい。よくわからないけど・・・クラクラして、倒れそうになりました」
「普通の人間は、とっくに意識を無くしているよ。むしろ、強めに掛けたんだがね」
「あたしでも、けっこうきたわよ」
「君がいつ倒れてもいいように、遊里は備えていたからね」
「・・・そうなんですか?」早坂さんは、とぼけたように笑った。── 全然、わからなかった。
「雪音ちゃん、他に聞きたいことはあるかい?何を聞いてもらっても構わない。君には、全てを応えよう」
戸惑ったのは、この状況に対してじゃない。自分の中に芽生えた新しい感情にだ。
「ありません」
ここに来て初めて、財前さんの笑顔が"本物"だと感じた。