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「なんだか、ごめんなさいね」市街地を抜けたところで、オネエが言った。
「何がですか?」
「いや、なんか迷惑かけちゃったかしらって。雪音ちゃん注目されてたでしょ」
「・・・いえ全然。わたしが男の人と会う事が珍しいから、面白がってるだけです」男の人、の後に少し間が空いたのはあしからず。
「そうなの?」
「はい、春香はわたしをイジるのが趣味なので」
「あたしが聞いたのはそっちじゃないけど」
「え?」オネエを見ると、メーターパネルの灯りで照らされた横顔が笑っている。
「雪音ちゃんは大人ね」
「・・・わたしが?春香には、今時の小学生のほうがアンタより大人よって言われますけどね」
オネエはハハッと笑った。「春香ちゃん、よね。あなたの事、えらい気にかけてると思うわよ」
サイドミラーに映る自分と目が合い、笑っている事に気づいた。「それは、否定出来ないですね。良くも悪くも、わたしをよく知ってます」
オネエは前屈みになり、ハンドルの上に手を重ねた。「さっき、凄く警戒されてたわ」
「・・・警戒?誰がですか?」
「あたしよ」オネエは変わらず笑っている。
「・・・ん?誰に?」
「まあ、そういうことよ」それに続く言葉は、なかった。「それより雪音ちゃん」
「はい」反射的に答える。
「あたしの名前、知ってる?」
これは、何かの引っかけだろうか。オネエの顔はもう笑っていない。聞かれたことには、答えるまでだ。「早坂 遊里、さん」
「よかったわ」
「・・・あの、一体・・・」
「だって、雪音ちゃん、あたしの名前呼んでくれないんだもの」
「はい?」
「瀬野のことは瀬野さんって呼ぶのに、あたしは1回も呼ばれたことないわ」
オネエは若干、ふてくされ気味だ。言われるまで気付かなかった。そして、意識もしてなかった。わたしの中では、オネエが定着していたから。
というか、「そんなこと、ですか」
「そんなことじゃないわ。瀬野は嫌われてるんじゃないかってイジメるし」
「・・・嫌いになる要素、ないですよね」というか、そもそもそんなに知らない。
「だったらいいんだけど」
顔は、あまりよさそうではないけど。──そんなこと気にしてたんだ。なんだか、よくわからない人だ。
「あの、わざわざ迎えに来てくれてありがとうございます・・・早坂さん」