15
「それでね雪音ちゃん、あなたにお願いがあるの」
「はい」
「この先、妖怪を見かけたら、あたし達に連絡してほしいの。それがどんな奴でもよ」わたしが返事をする前に、オネエが続けた。「それとね、あなたにも奴らを始末する術を覚えてほしい」
「それは、どういう・・・」
オネエは瀬野さんと目を合わせると、ズボンのポケットから小さな紙袋を取り出し、わたしの前に置いた。
「中だけ覗いて」言われた通りにする。中に入っていたのは、銀細工で出来た、小さな折りたたみ式のナイフだった。
「これって・・・」
「俺たちが持っているのと同じ物だ。折りたたみで小ぶりだが、女には扱いやすいだろう」
「もちろん、これの出番がないに越した事はないのよ。でも、またこの前のような事がないとは言い切れないでしょう?だから、護身のためにも持っておいてほしいの」
しばらく袋の中身に見惚れていた。今すぐ手に取って確認したい衝動に駆られる。「凄く、細いですね」
「そうね、あなたの手には馴染むと思うわ」
「綺麗・・・」
「ほら言ったでしょ、瀬野」オネエは笑っている。逆に、瀬野さんは眉をひそめている。「いやね、ナイフなんか渡したらビビって返されるぞって瀬野は言うんだけど、あたしは喜ぶだろうと思ってたのよ」
わたし、喜んでるんだろうか。確かに、このドキドキは嫌な感じじゃない。
「まあとにかく、常に持ち歩くようにしとけ」
このサイズなら問題なさそうだ。「わかりました。ただ、コレをわたしが・・・」自分がこのナイフを手に持ち、何かを突き刺すなんて想像も出来ない。
「さっきも言ったけど、それを使う事がないのが1番なのよ。基本的に、奴らの始末はあたし達がするから」オネエはふうと息を吐いた。「ただ、そうもいかない場合もあるでしょう。その時はあなた自身を守るためにも、やってもらうしかないわ」
話が現実味を帯びていき、心の中で不安が広がる。喜んでる場合じゃない。今までのように、避けては通れないんだ。
ふと、頭に乗る何か。オネエの手だった。
「大丈夫よ。あたし達が守るから」
「セクハラか?」
「やめてちょうだい!」