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愚か者に見せかけた勝者

 一方イングリッドは、男爵令息と無事に結婚をした。
 次男であった男爵令息は、イングリッドとの結婚を機に、ウェントワース男爵となった。
 ウェントワース男爵家には、小さな屋敷と小さな領地しかない。
 小さな領地の経営は、今まで通り義父となった前ウェントワース男爵に任せて、現ウェントワース男爵は自分の商売に身を入れて働いた。
 もともと家業で手腕をみせていたウェントワース男爵は、のれん分けを経て小さな商会を始めることとなる。
 大きな後ろ盾を持たない小さな商会であったが、時折、アデルとオスカーの商会と競り合う場面もある程度には存在感がある商会だ。
 平民向けの商品を主に扱うウェントワース男爵の商会は、家族を養うのに困らない程度には成功を収めた。
 だがイングリッドも、その両親も、自分たちで出来ることは自分たちでやるという方針を、変えることはなかった。
 相変わらず、屋敷の庭はイングリッドの父が世話をし、屋敷のなかはイングリッドの母が手入れをするという生活が続いた。
 イングリッドは思いのほか上手な料理を毎日の食卓に並べる。
 イングリッドの夫となったウェントワース男爵が、家族で営まれるウェントワース男爵家の暖かな雰囲気に魅了されるのに、そう時間はかからなかった。
 そしてイングリッドが妊婦になるのにも、そう時間はかからなかった。
 ウェントワース男爵は一男一女に恵まれて、料理上手な妻と働き者の義両親に囲まれて、愛人などとは無縁の幸せな家庭を築いたのである。
 

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