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第14話 敗戦国の英雄

『これは誰かが何か企んでるな……ってまあ企んでるだろう。こんなことをするのはあの嵯峨とかいう人しか思いつく人はいないけど』

 そう独り言を言いながら、誠はただ行きかう人々を眺めていた。周りを見回していた誠だが、あることに気づいた。

 ちょうど正面のこの駐車場の一番奥の柱の前に小さな女の子が立っていた。そして、誠がここにきてからこうして周りを見回している間も彼女は誠をじっと見つめていた。

「なんで女の子が?」

 ここは軍の施設である。関係者以外はそもそも駐車場に入るゲートのところで止められるはずだ。

「あれか……ここの職員の子供かなにかか……」

 誠はそう考えを切り替えて小さな女の子から目をそらした。誠は別に好きでここに立っているわけではない。

 ただすることもなく誠はそこに立っているわけでは無く、『女の人』が来るのを待っていた。彼を迎えの車に乗せて、辞令に書いてある配属先の司法局実働部隊とか言う『特殊な部隊』に連れて行ってくれる迎えの人物を待っていた。誠も馬鹿ではないので、その人物が何者なのかは、辞令を渡した禿の大尉に聞いて名前と身分、その人物の略歴ぐらいは知っていた。

 迎えに来るのは『クバルカ・ラン』と言う女性だと聞いた。階級は中佐とだけ人事の担当者から伝えられていた。

 十年前、ここ東和共和国の西に浮かぶ巨大な大陸『遼大陸』は『戦乱』に包まれていた。特に、その南部であった『遼南内戦』は凄惨(せいさん)極めるものだったと誠も聞いている。人事の担当者が言うには『クバルカ・ラン中佐』はその『内戦』の敗戦国『遼南共和国軍』のエースだと聞いていた。

 彼女は『紅い粛清者』との二つ名を持ち『(あか)い』専用シュツルム・パンツァーに乗って、目覚ましい戦功を立てたと言う。

 その後、彼女はなぜか内戦終了後成立した『遼南民主国』ではなく、ここ『東都共和国』に『亡命』したのだと人事の担当の大尉は言った。亡命後、東和共和国陸軍に引き抜かれた彼女は、シュツルム・パンツァーの教導隊でも、その『強さ』を発揮したらしい。

 人事の担当者の大尉の禿げ頭が頼んでもいないのに彼女の活躍について熱く語る様に閉口したことを誠は思い出した。

しかし、その活躍から『人類最強』と言う名をほしいままにしたクバルカ・ラン中佐は、その担当者をして『変な気を起こして』、三年前に発足した司法局実働部隊のパイロットをまとめる仕事についてしまった。そこまで話すと禿の大尉はそれ以上の説明を拒んだので、誠が彼女について知っていることはそれだけだった。

 『人類最強』と呼ばれるエースがいるのに『特殊な部隊』扱いされている司法局実働部隊と言う存在に誠はあまり期待をしないことにしていた。


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