第15話 女エース
「クバルカ・ラン中佐か……」
誠はあまり期待できない司法局実働部隊のことを考えるよりも、『人類最強』の女性エースのことを考えることに決めた。
誠はこの時、やはりせめて写真ぐらい見せてもらっても良かったのではないかと後悔した。ただ、禿の大尉は『一目でわかる』と言ったが、それが何を意味するのか誠にはさっぱりわからなかった。これは誠の得意の妄想力でそのエース女性パイロットを想像して、それらしい人に声を掛けてみるほかはない。そう考え、誠は自分の想像するクバルカ・ラン中佐像を作り上げることにした。
「十年前の戦争でエース……ってことは、当時二十歳前後ってことだから、今は三十歳より上のお姉さんってことか……『人類最強』のエースって言うぐらいだからがっちりとした大柄の人なんだろうな……」
まあ、ここまでは普通の想像である。だが、誠は人より少し、妄想力が豊かだった。
「数多くの戦場を駆け巡ったんだろ……頬に傷とか有ったりして……眼帯……ああ、片目だったらパイロットはできないよな」
誠の妄想はますます加速していく。
「でも……電子戦全盛期のこの時代に有視界で目立つ赤い色の機体に乗るなんて相当腕に自信があるのかな……やっぱエースと言えば赤い色の機体に乗っているのが定番だからな……うんうん」
想像の方向はだんだんとずれていく。それでも誠の妄想は止まらなかった。
「遼州内戦は上空は東和宇宙軍が飛行禁止地域を設定していたはずだからかなり低空での接近戦がメインだったと聞くからな……シュツルム・パンツァーの腕を生かした格闘戦で鳴らしたのかな?『行くぞ!斬り捨ててやる!』とか叫んだりして。やっぱりハスキーボイスで渋く決めてほしいよな……女の子女の子した声だと迫力が出ないな……」
だんだん誠の女の趣味の話へと話題は逸れていった。
「美人だと良いな……すっごい美人だっからな……切れ長の目で鋭い眉毛がチャームポイントだったりして。部下達をにらみつける時にその眉がキュンと上がっておっさんの部下達もしょんべんちびったりして……」
もはや妄想は何が何だかわからない様相を呈していた。
「もしかして……巨乳だったりする?そうだよな、巨乳だよな。白兵戦をするわけじゃないんだから邪魔にはならないだろうし、共和軍が使ってたシュツルムパンツァーの機種は知らないけど重力制御コックピットでGとかはあまり関係ないだろうからな……やっぱり女エースは巨乳だよ、巨乳」
自分の妄想に取りつかれだらしない顔でニヤニヤしながら誠はぼんやりと低い天井を眺めていた。
「さあ……どんな美人なお姉さんが迎えに来るのかな……」
誠の妄想の中では『クバルカ・ラン中佐』は切れ長の目と鋭角な眉の大柄な巨乳の美人ということで落ち着いた。
思わずニヤける誠の脇を宇宙軍に出入りする人々はおかしな人を見るような目で一瞥した後そのまま自動ドアの中へと消えていった。