魂呼び子.9
「まさかとは思うけど……君が呼びだしたのかい? メルは…——?」
アントイーヴがとまどいがちな視線に鋭い光を宿して、青白い大地に転がっているセレグレーシュを見おろす。
〔そうよ! あの子は…。こいつはあなたが出したのよね? メルは、メルはどうなったの?〕
「セレシュ君…?」
「まって、オレ…、よく憶えてない……」
実際、憶えていないこともなかったが、起きしなに、ふりかかった災難――難事を前に思考を整理しあぐねていたセレグレーシュは、とにかく、むやみに話してしまうことを
そんなおり。
事態を見守っていた
〔驚いている暇があったら、出たものを封じる支度を始めたらどうだ? われは、いつまでも、それを抑えている気はないないぞ〕
無感動に警告した少年の飴色の瞳が、地面に横たわっているセレグレーシュにおりる。
感情がつつみ隠されて、無関心にも思えたその視線にセレグレーシュは、
口をひき結び、とがらせ、相手に背中をむけるように身をおこし、立ちあがる。
いっぽうでは直立不動の獣人の毛並みに、友人(異父姉)のものと思われる血痕を見たプルーデンスが憎たらしげに鼻をならした。
〔…こいつ、燃やしていい?〕
〔駄目だよ。プルー……〕
アントイーヴが不景気な顔で彼女をとめ、足もとの法印の状態に目をおとした。
そこには、ほころびひとつない。
〔そう、だね…。とにかく封じよう〕
〔メルは、まだこの中にいるの?〕
どこか不安そうな千草色の瞳をむけられたセレグレーシュが、うかない表情ながらにうなずく。
〔なら駄目よ。この場所はメルのお気に入りだったんだから! ずっと離れたところにしなきゃ。スカウオーレスの森……いいえ! ベルドなんとかいうところの先の…山中にでも……〕
〔そんなところまで運んでられないよ。じゃぁ、そのへんの林の奥にしようか…(この森は森で面倒だけど、遠くまで足伸ばしてもいられないし…)〕
〔だいたいあなた、どうしてここにこいつを封じようとなんかしたの? このお花畑は、メルのお気に入りなのに!〕
〔メルが言ってたんだ。この獣人には、家に会いたい人がいたんだって。それなら、家が臨めるところ。こいつがよく来ていたこの場所に配置することで、彼女も納得してくれるかなって……(――その時は思ったんだ)。夜、森のなかで作業するよりは楽だったしね…〕
🌐🌐🌐
…――
結論として獣人を封じる場所は、《千魔封じの丘》をとりかこんでいる樹林地帯に探すことになり、
クウクウと。力ない呻き声を発する不動の獣人ともども、彼らは移動した。
白目のない獣人の双眸が、時に視界に入る
それをよそに。
追求されることを避け、
まだ白状する気になれなかったので、口を
確認するだけでよかった。そのはずなのに、なぜ呼んでしまったのか…——? と。
それを見た時…。
方位の感覚もなくて、ただただ、ふたりを隔離しようという意識が強く働いた。
その
手段など、どうでもよくて。そこにいるものを離しさえすれば…――。
その生きものの
ひとつ、問題が解決されるような…。
そんな感覚だったのだ。
そっちの
なら、こっちを呼べば……、獣人の方をそこから取り出せばいいのだと。
ちょっと、のぞくだけでよかった。
それで向いてる方向がつかめなかったら、しょうがない……ていどの感覚で、着手したことだった筈なのに…――そのおりの、よくわからない能動性のもとに彼は行動した。
やってはいけないこと。しちゃいけないこと。
その
そうすることを迷いもしなかった。
それが正しく、合理的な解決策のように思えたのだ。
もうひとり——…勝手に行動してしまう自分がいるような感触だった。
自分でもあるのに自分じゃない自分が…――。
やっぱり思うようには使えない。
沈黙を守っていても、そのうち事情を追及される。
いま、ばれなかったとしても、いずれは、あばかれる…。
なんとか、
今度は自分から
――とりかえしがつかないほど、ばかなことをした。
それでも…。
止めおかれた空間にみつけた傷だらけの少女を呼ばなかったことは、後悔していない。
少なくとも