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すれ違う爺と孫、これからも戦う爺と婆

 公園のブランコでゆらゆらとしながら、僕とレン君は真剣な顔で作戦の成果を確認していた。

「はる、非常に言いにくいことなんだが……」

レン君は、娘が不治の病であることをその父親に伝える医者のように難しい顔をして言った。

「はるの祖父もまた、悪霊に取り憑かれているのかもしれない」

「なんだって!?」
僕は飛び跳ねた。

レン君は「病気娘、父告げ医者顔」のまま続けた。
「根拠しては、お手玉というワードへの尋常じゃない反応。それに最後のアレだ」

「最後のアレって、僕が口元を見られちゃって言ってることがバレたこと?」

「そうだ。あの時はるの祖母は、はるの言った内容を聞き取れていなかった。オレが聞いた限りでも声の高さはそれまで通りだった。つまり声の高さが足りていなかったというわけではないはずだ。口元を見たから何か言っているということが分かったというのは何も不思議ではないが、その内容までも分かったというのは不自然だと思わないか?」
「確かに……」

「あれはきっと取り憑いた悪霊が何らかの不思議なパワーを使ったんだと思う。さもなきゃ、はるの祖父が読唇術でも身につけているということになる。そういう話を聞いたことはあるか?」

「いや、ないね。じいじにそんなマニアックな特技はないはずだよ」
「やはりな……」
レン君は悲しげに目を伏せた。

どうしても信じたくない僕は抵抗するように言った。
「でも待って。それならじいじはどうして僕にお手玉を託したの? 悪霊が自分自身を処分するように仕向けるのはおかしくない?」

レン君は即答した。
「それについては二つの可能性が考えられるな。一つは、はるが間違った方法でお手玉を処分することに期待して、悪霊自身がこの世に解き放たれるようにするため。二つ目は、はるの祖父がはるにお手玉を託した後に悪霊に取り憑かれたという説だ」

「なんてことだ! どちらにしてもじいじは悪霊に取り憑かれているというのか! うぅ。二人とも取り憑かれてしまったなんて。じいじ……ばあば……。僕は一体どうすれば」

「やはりお手玉を処分するしかない。それしか方法は……いや、もしくは何らかの形で二人に悪霊が取り憑けないようにするという方法でもいいのかもな」

僕はこの日決意した。
おばあちゃんちに巣食う、祖父と祖母に取り憑いた悪霊を必ず二人の体から追い出すんだ!
僕は決して諦めないぞ!


 はる君が以前にも増してよく遊びに来てくれるようになった。
しかし、問題がある。
必ずお(ふだ)を持ってくるようになったのだ。

「そこで拾ったんだ! じいじたちにあげる!」

毎回そう言って持ってくる。
どう考えても嘘だ。

こんなにお札が落ちているなんて、その辺で陰陽師同士の戦争でも起きていない限りあり得ないだろう。

正直怖い。
なにこれ。
なにが起こってるの?

それに、はる君は来る度にすっとぼけるのだ。

「あれ? おばあちゃんちなんだかお札だらけだね。あはは。おもしろーい。あ、そういえばこれ、そこで拾ったんだ。じいじたちにあげるね!」

そして「おばあちゃんち」に反応して憎たらしくほくそ笑むかず子と、無限にお札を持ってくるはる君を交互に見て、わしは恐怖に震えるのだ。

はる君はきっと妖怪に取り憑かれてしまったのだろう。
妖怪オフダアゲル、とか多分そういうのだ。
とても恐ろしいことになってしまった。


 わしは何週間もの間、はる君のお札あげる攻撃の恐怖に耐えながら、かず子のほくそ笑んだ腹立つ顔に怒りの炎を燃やした。

しばらくわしの中で恐怖と怒りが戦っていた。

恐怖は霧が町を覆うように怒りを包み込み、怒りは燃え盛る炎のように恐怖を払おうとした。
そうして恐怖と怒りが激闘を繰り広げる日々……。

夜は感情がごちゃ混ぜになりながら眠った。
訳もなく涙が出ることもあった。

そしてある日、ついに決着がつく。
怒りが恐怖に打ち勝ったのだ。

……。
わしが妖怪に取り憑かれてしまった哀れなはる君に対して心を痛めているというのに、かず子は何をほくそ笑んでやがる……。

……ちくしょうめ。
ドちくしょうめ!

ああああ!
許せん!

こうなったら絶対はる君に「おじいちゃんち」って言わせてみせる!
かず子に吠え面かかせてやるのだっ!

わしは負けない、諦めない!
やってやるぞぉおおお!

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