愁傷 そして…….4
星明りのもと。
〔子供は、ひっこんでなさいよ〕
となりにいる少年に投げられた
セレグレーシュは、そこに違和感を禁じ得ない
ついさっきまで行動を共にしていたはずなのに――…
距離をおいてとなりあうのにも、そこかとない
〔君がやっているのか? どうして…?〕
〔法印は正確に築け。そうすれば君の守備は、きっとあの熱にも耐える〕
(…いや、
思う中にも。
こっちが投げかけた疑念を否定してほしかった
どうしてこんな状況になっているのか――その
セレグレーシュは、自分が携えている球体に視線をもどした。
現場に思考が、おいついていってないことを自覚する。
しかし。
ならば、例のゆがみをおびた闇人は…――暴れていた男は、いまどこでなにをしているのだろう?
セレグレーシュは不思議と力がたまらない法具に心力をこめなおしつつも、一帯の闇に目をこらした。
いつの間にか風は凪いでいたし、今は火炎のゆらめきも見あたらない。
満点の星明かりのもと。漆黒にほど近い
〔なんの権利があって邪魔をするの? なにも知らないくせに……〕
鎌首をもたげる蛇のようにのたうつ青白い炎が、女
空中を舞いはじめた光源が、彼女と彼ら、
炎に庇われて浮かびあがったその
セレグレーシュは、そこに決然と存在する害意を確信した。
思いもしていなかった現状にぞくりともしたが、やはり敵対しているようだった。
自分がそうなる原因を作ったのだろうか?
〝邪魔をする〟とは、どういった経過のもとに投げつけられたのか?
理由をもとめて記憶を探る。
身におぼえがないこともなかったが、どれも命を狙われるほどのものとは思えない。
自分が知らないうちに、なにかそんな流れになる事態が起きていたのだろうか?
物事のとらえ方、許容の限界は人それぞれだ。
把握も理解もしきれるものではない――そんなことは、わかっていたけれども……。
そうしていた時。
とさっとさっと。塩の結晶でも踏むのに似た音が聞こえたので、セレグレーシュの視点が右へと流された。
過剰な熱と炎が大気を食う騒音にさらされた後だ。
結果、とつぜん、そこに現れたように感じられたのは、ようやく大人になろうかという年頃の上背《うわぜい》ある男だ。
女
その十数歩ほど手前で足を止めた人物の容貌や体の部分部分が、暗がりのなかに青白く浮かびあがっている。
アントイーヴだったが……。
ひとたび客と店員として言葉をかわしただけで、あとは接触もなかったセレグレーシュに、そのへんの
光源は限られている。
それも極地的なものなので、あたりは暗い夜の闇に包まれている。
人に過ぎない彼にとって、視覚における環境条件は充分ではなく……——その知覚把握は、〝どこかで見たか〟、〝誰かに似ているか?〟 というレベル以上にはならない。
そんな現実よりなにより彼の目を惹きつけたのは、現れた
(あれは、もしかして……)
〔プルー。やめるんだ!〕
〔どうして来たのよ〕
どうやら、その女性と知り合いらしいその青年――アントイーヴをおおっているのは、無色透明の安全地帯だ。
それを
それは法印士が
法印技能者が前もって形成しておく法印の結晶(とその他、
手法として共通する
〔邪魔をしないで!〕
〔プルー、家にいられなくなるよ。
〔それがなによ! その子は殺したわ〕
青年がまとってる
〔きっと、たくさん殺している——…。これからも、きっと殺す!〕
瞬間的な
それでも言葉ではなく印象、感覚として、その意味を
彼女が口にした残酷な
そんな現実など望んでいない。
だから否定したかったのだ。
けれども、まったくといっていいほどコントロールできていない彼には、確信がもてないこと。
セレグレーシュは、あらがいようのない実情を前に、かたくなに唇をひき結んだ。
(殺したくて、殺したんじゃない……)
やはりその人は、移動初日の夜に起こった出来事を正確に
彼が自覚していなかっただけで、嫌悪されるのに
(だから、こんなことに……なってるのかな…。……)
——
セレグレーシュが生まれもった、
望んでしているわけではなくても、人を
殺していなければ、まだ大目にみられたかもしれないが、そうではないのだ。
……追い出されるかもしれない。
思いあたった彼が手はじめに気にかけたことは、その
(ヴェルダ…。オレ、もしかして、おまえの期待に応えられなかったのかな……)
かたわらには気まぐれに彼をとらえる冴え冴えとした紫色の双眸がある。
夜目のきく生物のように闇にひらめくものではないのに、
内部確立していながら、外にそれと主張するように
法の家に住むようになってから、
彼がヴェルダなのなら……。
思いもよらないことであったが、ヴェルダが闇人だったとするなら…——
同族を傷つける彼を毛嫌いすることなく、生きていけるよう導いてくれた——そんな現実が予想できる。
それなのに…。
自分は、ろくに技術を身につけないうちに、その人が、そこと教えてくれた組織から不適格の
申し訳ない思いと、確かとはいえない
その
材料もとぼしい、あて
それでも考えてしまう。
(ヴェルダは…やっぱり……。オレに
セレグレーシュは、なかば闇にしずんでいる少年の表情を読もうとしながら、相手の視線が向けられると反射的に目をそらし、あらぬ地面を見すえた。
捜していたもの……かもしれない。
見つけたと思ったのに、
※ 「闇人殺し」が理由というのは、あくまでも、セレグレーシュの受け取りになります。