愁傷 そして…….5
いっぽうでは、ふたりの口論が続いていた。
〔よくわからないけど、プルー。とにかく今はやめるんだ〕
〔いやよ〕
〔頼むから、やめてくれ。落ちついて考えよう〕
〔わたしのすることよ? わたしが自分で判断するわ〕
〔そう…。…じゃぁ、君のこととして聞くけど、君はそれでいいの?〕
〔いいわ。さっぱりする〕
〔さっぱり、って……〕
本気なのか、勢いや
とっさに判断することができなかったアントイーヴは、とまどいのなかに目をしばたかせた。
その
〔はき違えてるよ、プルゥ…。こんなことして、なにになるって言うんだ〕
女
〔なんにもならない。そんなこと、わかってる〕
こころもち頬をふくらませながら、むっつりと認める。
〔だから、どうだっていうの? あなたには関係ない。ほうっておいて!〕
〔放っては……おけないよ。ぼくが
〔知らない…〕
〔プルー。後ろを見るなら正確に見なよ? 彼は……。君たちを救ってくれた人だろう?〕
〔ばかを言わないでっ! なにが救いよ…。たすけてもらったことなんてない!〕
女
〔救いなどではなかった…。勝手な解釈しないで! この人さえ呼ばなければ、メルは、まだ……〕
〔プルー……。それは違うだろう〕
〔なにが違うのよ。結果がこれだもの。おなじこと!〕
説得をこころみるアントイーヴに対し、徹底して否定の言葉をかえす。
はたからは、とりつくしまもなさそうだったが、かたくなに相手の言葉を拒絶して見える彼女の内には、現実を直視する冷めた思考も芽生えていたのだ。
(そうね…。これは結果論。呼ばれたことなんて、どうでもいいもの……。だけど、メルはもういないのに、どうして……。どうして、わたしだけ我慢しなきゃいけないのよ……)
葛藤のはざまに。
彼女が思い出しそうになったのは、記憶の中に
——彼には感謝しているの…。だから、プルー…————……
おくゆかしくも、りんとした響きの声。
なぜ、いま、そんな記憶がよみがえるのか、彼女にはわからなかったが……。そのとき聞いたはずの言葉は、いつも思い出せない。
当時は気にかけるようなことではなかった。だから忘れてしまったのだろう。それなのに、いまは、とても重要なことのように思えて、彼女の意欲にブレーキをかける。
その子がこの場にいたなら、
そんなことは、わかっていた。
きっと身を投げだしても守ろうとする。
彼女はメルレインにあげる手を持っていない。そんなのは思いもよらないことで……。
だから、自分では
自覚はしていた。
それでも譲れなかったから、いろいろ考えた
不平不満と
《家》にあふれているものとは容態……外形表現が異なり、ある角度からは克明に見えるという
その少年が近々
なにもかもが面白くなくて……。ぐちゃぐちゃになっていた頭で考え続けているうちに、ひらめいたのだ。
その少年がこの場所に後から組まれたという《
どんなものでも、その子なら
そうならそうで、
そうすれば、きっと、ここに閉じこめられていた
ふつうは叶わぬ解放を呼吸するように可能にするその能力、
これ以上にない妙案——解決法に思えたので、楽しくなって……そう割りきって、思いつきを行動に移した。
可能性ある他者の命を害して、蹴散らすような行為——
その手前勝手で、わがままな
それと自分が睨んでいる対象は、あの子が大切にしていた人だ。
一も二もなく、全身全霊をかけて
けれども……。
それもこれも、いまとなっては意味がないと…――そう思っていたし、事実、その筈だというのに、なにかが腑に落ちない。
なにか掛け
——…なにを言っているの? わたしがいつそんなことを? わたしだって…——
いつだったか、
自分は、なにを笑い飛ばした?
思い出せなくなっている記憶の断片……。
(そうよ……。わたしだって…)
反骨精神が高ぶっているのに、アントイーヴの言葉が正しいところをついていそうな予感もあって——
女
こちらに来た時……
右も左もわからないふたりに退出を言い渡したきれいな髪の少年※。
世界のまばゆさに目がくらんで、感謝していた時期もあった。
けれど――
やはり、
どうしても、ゆるせない……。
なにより、肝心なものが——…
となりにあるのがあたりまえだったはずのものが、彼女のそばにいないのだ。
あれこれ考えすぎて、どれが彼の破滅を望むほどの理由だったのか、もうわからなくなっていた。
とにもかくにも彼が
なにも知らず安穏と暮らしている現実が、どうしても許容できないのだ。
(どうして、
大きなチャンスは、すでに逃してしまったので…――女
※ どうでもいいことかもしれませんが……。
裏情報として、プルーはけっこうな髪フェチ……というよりか、かなり髪や毛並み、流れが認められるもの。流体や素材の状態・様相にこだわりがある方です。
彼女ほどの