ネメシスにより、新たな人生を得る。
(私なんて、生まれてくるんじゃなかった…)
スマホのニュースサイトを見る度、
初めて想いを寄せていた同級生、
「何で!? どうして!? なんでよっ!?」
怒りに震える幸恵だったが、それ以上に不安が襲いかかって来る。
(氷室くんが死んでしまったと言う事は……)
犯人は分かっている。間違いなく俊明にブチのめされたイジメグループの報復だ。
(私、また一人ぼっちだ……)
そんな思いを抱きつつ、幸恵は学校へと向かう。しかし足取りは重い。
「近藤さん!」
背後から声をかけられ、幸恵は思わず振り返った。そこには顔も会わせたくない人物が立っていた。
「神宮寺、さん……」
裏では幸恵を地味子だと陰キャだの呼んでる、イジメグループの女王的存在、
政治家を父に持つ彼女がこの学校に編入してから、元々クラスメートと関わろうとしなかった幸恵は、一気に教室内で息苦しい日々を過ごす事になったのだ。
「わたくしの前を歩かないで下さる! トロトロと、嫌がらせですか?」
(………こんな女の取り巻きに、氷室くんは…)
幸恵は美奈から逃げるように、小走りに去っていた。
翌日、幸恵は学校を無断欠席する。
今更ながら、こんな顔に産んだ親を恨んだ。エイリアンや陸に上がった深海魚など、本当に傷つくあだ名をつけられたこともあった。
バスを乗り継いだ幸恵は、とある山麓にきていた。もう山道を4時間は歩いただろうか。
(次に生まれ変わる時は、もっと美人に生まれたいな……)
ガードレールを乗り越えた幸恵は、そのまま崖下に転落していった───
◇◇◇◇◇
(ここは…?)
目が覚めた幸恵は、フワフワと体が浮いているのに気が付いた。
(ああ…私、死んじゃったんだな…)
浮遊感の無い、天に昇るようなフワフワとした感覚は、間違いなく死を迎えた人間が体験するものだ。
と、目の前に光輝く存在が現れる。
(え…!? 天使…? それとも女神様……!?)
どの道本当に“お迎え”というものが来たのかと幸恵は悟る。
『近藤幸恵さんですね』
「そうですが……」
『私は復讐を司る女神。
「えっ?」
(ど、どういう事なの?)
『貴女にはまだやり直すチャンスがあるのですよ?』
(や、やり直す……?)
少々考えた幸恵だが、それをキッパリ断った。
「いえ、結構です。今さらあんな世界に未練はありません。あの世界に戻るなら、地獄の方がマシです」
もう俊明はいない。戻ったところでまた陰湿なイジメが待ち受けているだけなのだから。
また考えて───幸恵はネメシスにいった。
「もし時間を入学前に戻せて…私の外見を神宮寺美奈に、神宮寺美奈の外見を私にするっていうならまあ、戻ってもいいですけどね!」
『分かりました。では次に貴女が目の覚めた時、あなたは生まれ変わっています。彼女───神宮寺美奈の外見となって』
「え!?」
その言葉に幸恵の目が変わった。
(う、ウソでしょ……)
そんな思いを抱いた後、再び意識は遠くなっていった───。
次に目が覚めたのは、自室のベッドだった。
(ど、どういう事……? 私生きてる!?)
訳が分からない幸恵は一旦考えるのを止め、辺りを見回す。そこで異変に気付いた。
「え……」
カレンダーの西暦が、1年半前。入学数日前に戻っているのだ。
(う、ウソ! ひょっとして!!)
急に意識のハッキリした幸恵は、急いで鏡を見る。そこに映っていたのは………あの神宮寺美奈の顔だった。
(ゆ、夢じゃなかった……あ、ありがとう! ネメシス様!!)
幸恵は涙ぐみながら、思わず手を合わせた。
しかし、だ。少し冷静になったらその感謝の気持ちも、少々不安になる。
両親が自分の顔を見たらどう思うか、だ。
私服に着替えた幸恵は、階段を降り恐る恐る両親に声をかける。
「おはよう、お父さん、お母さん…」
「おはよう。ほら、早く食べて幸恵」
「俺は朝イチで会議があるんでね。そろそろ会社に行くよ」
母は何事もなかったのかようにベーコンエッグとトーストを差し出し、父はネクタイを締め直して玄関に向かう。
そう。両親は美奈の顔になった幸恵を、何も不思議に思っていない、ということだ。しかも母の顔まで美人になっているではないか!
朝食を口に運んだ幸恵は、この後の事を考え出す。もうイジメは起きないということだ。でもあの性格の美奈だ。外見は過去の自分になったとしても、今度は他の女子をターゲットにする可能性もある───
「そう! 今の私はシン・近藤幸恵、よ……!」
そうだ。自分は生まれ変わったのだ。顔や姿は間違いなくあの超絶美少女“神宮寺美奈”なのだ。
しかし中身は自分“近藤幸恵”だ。そう考えると途端に元気が出てきた幸恵である。
(待ってて氷室くん…!!)
幸恵は明後日からの入学式が待ちきれなくなった。
ただ一人自分の味方だった俊明に、今度こそ想いを伝えたい。
そして何より。美奈を始めとするあのイジメグループ。見て見ぬふりをした教師達への復讐の炎が、幸恵の中に燃え盛ったである。