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自分がさらに捻くれさせた?

 スカートは校則ギリギリまで短くし、美奈が履いていたような黒いサイハイソックスを履く。
 今までは自分の、もうガニ股といっていいレベルのO脚が気になり、なるべく下半身へ注目を集めないようにしていた。
 しかしこれからは違うのだ。全身が映る姿見を見た幸恵は、鏡の中の改めて生まれ変わった自分に、自然に笑顔が綻ぶ。
 一旦ラフな服装にして、下着をつける。が………。

(あの女…胸もお尻も大きかったのね…)

 仕方なく幸恵は小遣いで、ブラもショーツも買い直す羽目になった。
 そして入学式当日。
 幸恵は新たな学校への通学路を美奈の姿で歩く。
 思わず涙が出そうになるが、ここで泣いたらおかしいだろうと思い直した。
 周りは美奈の姿を乗っ取った幸恵、と知る人間がいない。つまり今の幸恵は地味子でもなく、陰キャでもないという事だ。
 事実男子が皆、幸恵を見て驚いている。
 しかし幸恵にそんな事には興味ない。

(大丈夫よ……氷室くん……すぐにあなたの元へ行くからね!)

 学校に着いて入学式。そのあとはクラスでのそれぞれの自己紹介である。

(氷室くん……私よ……!)

 そんな中、男子生徒の紹介が始まった。氷室俊明だ。

「趣味も特技もこれと言ってありません。まあそれなりに、よろしくお願いします」

 さっさと席に座る俊明に、担任教師の松井が渋い表情を浮かべた。
 忘れもしない、数学教師で担任の松井。
 見た目通りに陰湿で、幸恵へのイジメを「イジメられる方にも責任がある」などと言って全く取り合わなかった男。

(相変わらず嫌な目つきね……)

 そう。松井も復讐のターゲットの一人だが、今は堪える時だ。
 男子の紹介が一通り終わり、次は女性である。

「近藤幸恵です! 3年間宜しくお願いします」

 第一印象が肝心。幸恵はとびきりの笑顔で、堂々と挨拶をした。
 クラスの女子達からは歓声が上がる。美奈の姿を乗っ取った超絶美少女の彼女は、羨望の的のようだ。
 そして男子はそんな幸恵をジッと見つめていた。どうやら早速興味の対象になったらしい。

「特技は手芸。趣味は………料理と格闘技観戦です」

 俊明以外の男子が全員ザワつく。いや、むしろ俊明も格闘技と聞いて一瞬ピクッと動いたが、すぐに何事も無かったように目を逸らした。
 いよいよ前世での幸恵の姿になった美奈の自己紹介だ。
 起立した美奈を客観的に見ると、自分は改めて酷い外見をしていたのだなと思い知らされる。
 勿論メイクは美奈の方が各段に上手いが、それでも醜さは隠しきれない。
 さて、美奈がどんな自己紹介をするのか。幸恵は興味深く見守っていた。

「神宮寺美奈です。皆さん、宜しくお願いしますわ」

(はあ!?)

 思わず声を上げそうになった幸恵。確かに同じ新入生がする自己紹介としては無難だが……過去に戻る前にしっかりと記憶にある、あの自慢タラタラの自己紹介ではなかった。

(でも考えてみたらそうよね…彼女はずっと、私の顔で過ごしてきたんだから)

『幸恵さん』

 その時だった。ネメシスの声が頭に響く。

(は、はい! なんですかネメシスさん!?)

 少しの間をおいて、ネメシスは忠告した。

『彼女…神宮寺美奈は生まれつき傲慢な性格だったようです。巻き戻ったこの世界では貴女の顔と体形で育った事で、さらに他人への劣等感もプラスされたというのを付け加えておきます』

 ネメシスの忠告に、幸恵の眉間にも皺が寄る。
 確かに美少女だった時でも、他人を見下す傲慢さを隠し切れなかった美奈だ。それが前世の自分のような顔と体格で生まれたなら、尚のこと拗らせて当然か。

『どっちにしろ、彼女は変わらないという事です。それでは幸恵さん、楽しい高校生活をお過ごしください。復讐の時はまた教えますね』

(は、はい! ネメシスさんありがとうございましたっ!)

 ネメシスとのやりとりの後、美奈が自己紹介のあと自分を睨んでいるのに気が付いた。

(何を露骨に嫉妬しているのかしら)

 幸恵は慌てて目を背ける。
 自己紹介が終わると、担任教師の松井から一人一人に学生証が入った封筒を配られた。

「全員に行き渡りましたね? この中に学生証が入っています」

 学生証の写真を見て、全員の顔がほころぶ。
 それはそうだ。これでこの学校の一員に慣れたという証が出来たのだから。それは幸恵も同じである。美奈の顔が映った自分の学生証を見て、自分は生まれ変われたという実感が湧く。

「あ、でも見たのはいいけれどネット上にアップしないようにね」

 冗談交じりに松井が言うと、クラスから笑いが起こった。幸恵も笑うしかなかった。
 そんな中でも俊明はやはり、どこか違う所を見ているような雰囲気だ。

(氷室くん……)

 そうこうしている内にホームルームが終わり、下校時間となる。

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