語学力
1ヶ月間、音海と過ごしてきて違和感を感じていた。
なんだか、年相応に見えないというか……。
たまに、本当は高校生じゃなくて中学生じゃないのかと思う時もあるが、同級生らしくなくてもっ
と、色々な経験を重ねた大人のようにも感じることがある。なんとなく、頼りないと思う。まあ、
冷蔵庫にウィナーインゼリーしか常備していない水無瀬も頼れるとは言い難いが。
ホワイトボードに記されていく計算式をノートに写す。十円ハゲが特徴の塾講師はノリが良いと学
生からも評判がいい。
そういえば、音海は勉強はできるのだろうか。帰ったら、聞いてみよう。
もし彼の本当の目的ではなくとも、高校生活を円滑に行なっていくにはそれなりの学力が必要だ。
時計の針が、重たそうに時を進めた。
「……勉強?」
怪訝そうにこちらを見る瞳は、相変わらずだった。彼は3日前から姿をくらましていたが、今日家に帰ると何食わぬ顔で
この前水無瀬が見ていた『32号』のドラマを観ていた。
「そう。どれくらいできるの?得意科目は?苦手な教科は?」
「____わかんねぇ、」
寝巻きに着替えながら、音海はそう言った。
まだ完治していないらしく、たまに当たったりすると顔を歪めて睨んでくる。
「とりあえず、今日の宿題終わった?」
首を振る。
「教えてあげるから、持っておいで。」
そういうと、水無瀬が最近用意した彼用の部屋に入っていった。
音海は何を考えているのか知らないが、毎回ここに戻ってくる。
一日中いる時もあれば、ふらりとどこかへ姿を消して三日くらい戻って来ないこともある。
最近は一週間ほど帰って来なくて流石に落ち着かなかった。
一度、何でいなくなるのか、どこに行っているのかを聞いたことがあるが、どれも、水無瀬には関係ないと
話を終わらせてしまった。なかなか秘密が多いらしいが、ちょっとくらいは頼って欲しいとも思う。
使っておらず物置になっていた部屋を片付けて、ベットとタンスを置けば、なかなかそれっぽくなる。
タンスはいらないと拒否されたので、ベッドだけだが。
渡された宿題を見て、仰天した。英語と地理、経済系はほぼ全問正解だったが、それ以外はズタボロと言ってもいいくらいだ。
こんなんで、今までどうやってきたのかが逆に気になるが。
「英語と地理と経済以外は、あんまり得意じゃない……?」
「さっぱりわからん。」
あんまりどころか、全然出来てないんだが。
「中間期末でさ、点数悪すぎると退学になるらしいけど。」
そんなことは初耳のようで、音海は困ったような顔をした。
一回の試験だけで退学になんかならないだろうが、きっとこのままだと危ない気がする。
腕時計に目線を落とすと、まだ夜は始まったばかりだった。
「ま、なんかわからないとこあったら聞いてね、」
そう言って風呂に入りに行った。