関係者
あれから、二週間ほど経った。音海は、何故か毎日自分の家ではなく水無瀬の家に帰っていた。
「そういえばさ、あの傷はどうしてできたの?」
「……別に、たいした事ない。」
流石に惚ける訳にはいかなかったらしく、答えてくれた。
「もしかして、刃物を持つ悪い奴と戦ってた?」
「__まあ、だいたいそんなとこだけど、」
「勝ったの?」
「わかんねぇ」
勝ち負けがついてないということは、決着がつかなかったという事なのか。
「もうあんなことしないでね?」
「傷を作るなってことか?」
「それもそうだけど……もし傷をつくらないんだったら戦ってもいいわけじゃないよ、」
「水無瀬だって大量に包帯買ってただろ」
「もしもの時だよ、包帯は結構使い道あるからね。」
怪訝そうな眼差しを向けられる。
「で、誰と戦ったの?」
「刃物を持った奴。」
「そういう事じゃないって」と言いそうになたけれどやめておく。誰にだって言いたくないことは
あるんだろう。それを無理やり聞く必要はない。
学校でも、彼は変わらず極度の人見知りを拗らせていた。諦めきれない女子たちの猛烈なアピール
に困っている姿に思わず笑みが溢れる。可愛い。無邪気で小さな子供に抱くような気持ち。
音海は無邪気ではないし小さい子でもない。逆に、見方によると無愛想に見えるかもしれない。
「なに一人でニヤついてんだよ」
「和美、何かあった?」
「宿題取りに行こうぜ」
「……誰の? 」
「俺の!」
「じゃあ関係ないじゃん、一人で行ってこいよ」
そう言いつつ、騒がしい教室を後にした。
「で、どうなんだよ」
「は?何が?」
「だから、麻木!」
「麻木が?」
古いとまではいかないが、昔ながらの雰囲気のある廊下を歩いていると、和美が突然そう言った。
「何があったんだよ」
「別に、何もないよ」
どうやら彼は水無瀬と音海が____だと勘違いをしているようだった。
「何だ、何もないのかよ。つまんね〜」
そう言いながら、軽く笑った。こういう、軽い感じの人柄が人気なんだろうか。
チャイムギリギリで滑り込んだ教室は、まだ騒々しかった。