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追走.5


 連れの意識が深層にしずんだころ――彼女は、その枕もとに近づいた。

 無防備に眠っている少年の顔をなにをするでもなく見おろす。

 そこに眠る人間が備える涼しげな青磁色の流れ。

 上下があわさっている、頭髪よりいくぶん深い色どりの睫毛。閉ざされている双眸。

 わずかに日焼けしている健康そうな肌。

 成人に満たない未完成さのなかにも、男性的な気丈さが見てとれる整ったおもてを。

 それは、やろうと思えば簡単に息の根をとめられるだろう人の子。

 彼のやすらかな寝顔を見ていると彼女は、たまらなく腹が立ってくるのだが……。

 手を出せば、また、昨晩のようなことが起きるのだろうか?

 呼び出される存在を恐れているわけではない――(得体が知れなくはある)

 けれども、

 行動をにぶらせるなにかが、その彼女、女稜威祇(いつぎ)のなかにはあった。


 ――本性を隠して組織にしがみついている…。
   それはそれで、不憫(ふびん)な子なのかもしれない…――

 
 考えもするのだが、秘めた想い(くじ)けるほどではなく……。

 計画をたてて段階を踏もうとしていても、衝動的に手を出してしまうほど憎い。

 その薄情さがゆるせない。

 無知さ、馬鹿さ加減が我慢ならないのだ。

 それなのに、なにかひっかかる。

 重要なことを忘れてしまっているような……。そんな予感があって。
 時には行動することを躊躇(ちゅうちょ)してしまうのだ。

 多少、長く共に過ごそうと、情が移るなんてありえない――

 そう、確信していて。

 こんな計画など投げだして、早々に済ませてしまいたい――

 そんな思いもあるのに…――

〔…嫌味な子……〕

 女稜威祇(いつぎ)は、暗いまなざしで呟いた。

 さびしさも悲しみも峠をこえてしまったような空虚な目をして。

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