暗 影.2
買い物は手に入れた
連れがこの通りなので、
金融および両替を
少し提示する《法貨》を銅の単位で複数にするか、上位単位にして一枚で済ませるかで迷ったセレグレーシュは、この先、通る予定の人里の価値観……
とはいえ、あまり多くを見せるのも危険なので、たまたま法貨が手に入ったというように、景気よさげな上機嫌顔をよそおって、
そして、後回しにし続けていた遅い昼食をとることにした。
食事の前に
その頃には、かなりおなかを空かせていたらしい女
この街には、
使われているタイル片は、ばらばらのようでも統一感のある同系色で組まれ、上にむかうほど、より淡く、実際の高さより高層に見えるよう工夫されている。
カンテラをひっかける部分や扉の取っ手のちょっとしたところに、
うわ薬のきいた陶器製の窓枠のむこうに、白い
男の子が上半身をのぞかせている森の泉のほとりで、甲冑を着た騎士や支配階級と思われる一家(もしくは旅行者)が
模型のテーブルとしてそえられている倒木のかたわらには、人面の仮面をかぶった前足が二
店の名は《バナスパティ》。
おそらくは、シャミールのそうおうの階級人・御用たしの店だろう。
〔ここ、見るからに高そうなんだけど……〕
〔のぞいてみたら白身魚のソテーが美味しそうだったの。《キーリク》の《ワイン》もあるし。お昼は、それにする〕
闇人の言うことである。どうやってのぞいたのかはさておいても……
その人は、お金で苦労したことがないのに違いなかった。
自身の
こういった店は清潔で設備管理がいき届き、サービスが過剰なほどなので、安心して馬をあずけられるという特典――どれもこれも、恵まれた有力者に対応する上で磨かれたクレーム対策にして
上層クラスの店にも、いろんなタイプがあるが、女
…――。
差しだされたメニュー表には、
(…――……。安くはないけど、ほどほど良心的な価格かも……)
セレグレーシュが、お品書きをのぞきこんで意外そうな
それをよそに。
女
〔《ワイン》は、《キーリク》産の白にして。白身魚のソテーと……。あと、パンにいろいろ
テーブルをおとずれていた男性スタッフは、聞きなれない言葉の連ねを耳に、ひくりと表情筋を
「キーリクの…――ワイン? でございますか?」
すぐにも日ごろの接客姿勢をとりもどし、唯一ひろえた単語から、それと連想された憶測をもとに確認の言葉を繰りだす。
こころなしか、女
「そちらのワインでしたら、ただいま六種類ほどそろえてございます。年数はそれぞれで……赤が二種、
〔白と言ったでしょう? 聞いていなかったの?〕
「失礼ですが、お客さま。どちらのご出身……いえ、ご使用のそれはどちらの言語でございます?」
「話せるんだから、通じる言葉使えよ」
テーブルを訪れていた男性従業員がとまどうのをかたわらに。ため息まじりに注意したのは、彼女とむき合う位置に同席しているセレグレーシュである。
〔どうしてわたしが合わせなきゃいけないの? わからないのなら、わかる人をよこせばいいのよ〕
「このへん、その言葉、通じるやつ、あまりいないから」
〔あなたは、わかるじゃない〕
「そんなの……。…オレは、教わったからな」
言葉をつまらせながらもセレグレーシュは、無難そうな
(まさかとは思うけど、この人、知らないのかな? 習う習わない以前の問題で…――闇人の言葉には霊的な
周辺の耳を気にしながら、こっそり腹の内で思案する。
離れた席で、お茶している者の姿もあったが、食事時を過ぎていたのは、
〔そうみたいね。得意って聞いたわ。じゃあ、あなたが
そうするのが当然と言わんばかりの主張だった。
そこでセレグレーシュは、表情をあらためて慎重に問いかえした。
「それ拒否したら、減点されるの?」
〔減点?〕
女
〔ぁあ、試験のことね〕
返された呟きは、かろやかに響いて深刻さがまるで感じられない。
〔あなた……。まじめに試験、受けるつもりなの?〕
「ふざけてたら落ちるだろう。やるだけやって、ダメだったらしかたないけど……」
〔…そう。なら、そう
弱みを手玉にとるような、逆らいがたい発言である。
(墓穴……掘ったみたいだ…)
審査役に
セレグレーシュは、うっかり口を滑らせたことを後悔した。
その後は、連れと店員が使う言語の違いを