暗 影.3
「――…お客様は、いかがなさいますか?」
「うん。そうだな……(時間、過ぎちゃったから、空腹もあまり気にならないけど…。やっぱり、食べられる時に食べとかないとな)――めんどうだから同じでいい。でも、飲み物は――…」
矛先を向けられたセレグレーシュが思案しながら応じていると、正面から遠慮のない指摘が下された。
〔主体性がないのね〕
「……ワインじゃなく、湯冷ましで…。
〔わたしには、あとでアイスティーをちょうだい。茶葉はミロクね〕
「ミロク茶はある?」
「あいにく、そちらは滅多に手に入りませんので――。
〔
「……。食事の終わりまぎわに、なんでもいいから、さっぱりした味わいの茶をアイスで、こっちの人に――…」
🌐🌐🌐
手間も多かったが、どちらかというと不平不満とあらぬ
その街を後にするとセレグレーシュは、いくらか元気を取りもどした。
郊外を移動していれば、連れの女性が慣れない動きをみせても、他人の目と耳、反応を気にする必要はない。
行きずりの目がないわけでもないが、だいたいにおいて目撃する可能性が高いのは彼だけになる。
変わった色彩特徴からそこにいるだけでも
あまり良い思い出がないので、まわりの注意をひくと自分で
連れの女性は大金を
彼女が例の種族であることを知られるのも、できれば避けたかった。
闇人が一般人との関わりを断って久しいこちらでは、恐れより欲や好奇心が先になるのか……。その力を求める
無知な闇人を利用しようと近づいてくる人間がいると、面倒だ。
こういった状況にあっては、たとえ同業者であろうとも。
家を出るにさいは、フードをかぶってゆくか…――(
とにもかくにも
彼ひとりが気をつけるだけでは、
問題の連れはというと、セレグレーシュが
購入したうちのひとつは、
ご
別に食べたいとも思わなかった――(なかばは強がり。自分からは手を出そうとしない部類なだけで、興味はある)が、連れとなった彼と分けあう目的でその数を求めたわけではないらしい。
彼女とは、短くてもひと月半ほど…――長くなれば、ふた月あまり行動を共にすることになるので、セレグレーシュには、うまくやっていかなくてはという思いがあった。
〔一般に街で流通しているのは、
セレグレーシュは馬を進めながら説明をはじめた。
〔銀貨から上は、裕福層が
一般に、そこまで値がはるものは少ないから、使うならくずした方が便利だ。
両替商に行けば、物でも金でも、望むかたちに替えてくれる。
貴金属や原石、衣類や日用品などによる物々交換もあたりまえのようにするが――(土地柄や品物によっては金銭より喜ばれる)、この大陸の西には、共通する交易目的の通貨が存在する。
国や自治体が独自に発行するものもあるので、地域によって使用頻度や相場がかなり違ってくるのだが、いま彼らが主として携えている種類のものは《
《法貨》は《法印》がらみの仕事や商売で、それなりに使われるが、《法具》でもあり、製造元がほぼ限定されていることから、利用
流通比率で見れば、市場の一割にも満たないレベルだ。
その異常なまでの純度と特性、利用手段をもとに宝物や御守りあつかいもされ、時には国や裕福者の金庫で眠りがちにもなるので、市井における普及率は、さらに低くなる。
主に素材の価値感と法具としての有用性を基準としているその通貨には、《
【※ 例/《銅の環》として、そのまま《どうのわ》とも呼ぶ】
小銭の《貨》から《
貨幣の分類は
銅貨、
銀貨、
金貨、
それぞれ素材のままに、カッパー、シリカ(言いまわしや土地によっては、クリスタルやクォーツ、ガラス)、シルバー、ゴールドとも呼び習わし、数量を現わす単位はどれも花びら感覚の《
この上に、《金の
純金のやわらかさを備えながらも軽量で、
数が限られ、主に《法の家》相手の大きな取引でもないかぎり金庫に眠っている性質のものである(上位単位が存在する銅と水晶、銀に、この単位は存在しない/単位は《
材料の質量や見た目に
これに対し、この形で製造されている《法貨》以外のもの……
――法具たり