第9話 語弊
「...はい?」
「あっ、頂けませんかは語弊がありますね...。貸していただけませんか?」
「...あなた何を言ってるの?」
未だにそのキャラをやり続けるのか?なんて突っ込む余裕もなかった。
「...いえ、無理なら構わないですけど...。2人が結婚してることバラすだけなので...」
「ちょっ、七谷さん...なんで...」
「5月26日。朝食はおにぎり。いつも通り7:45に家を出て、8:15学校に到着。昼食はコンビニの焼きそばパン。家に帰ってからは少しゆっくりしたのちにアルバイトに行く。21:50にアルバイトが終わり清人くんと電話をしながら帰宅」
「...え?」
「私...碧くんのファンなんだよ?...5歳の頃にやってた子役の時代からずーっと応援してて...、うちの学校に入ったのも...、碧くんがいるからなんだよ?」
子役時代という俺の全てであり、黒歴史を知っている女の子。
てか、俺のストーカーってことか...?
真凛ちゃんとは少しタイプの違うヤバい人ってことか。
「...私だけのものにしたいとか...そこまでは言わないけど...ずっとそばに居たいんです...。だから...時々でいいので貸していただけませんか?」
「...嫌よ。碧くんは私だけのものなんだから。誰にもあげないし、貸しもしないわ」
「いいんですか...?バラされても...」
「どうすんの?碧くん」
「碧くんはどうしたいんですか...?」
「俺は...」
◇
「この服どうかしら?」
「いいんじゃないかな。似合ってると思う」
「本当に思ってる?ちょっと上の空すぎない?」
「...まぁ。まさか七谷さんが俺の子役時代のことを知ってるとは思わなくて...流石に動揺してるというか...。ちなみに真凛ちゃんは知ってたの?俺が子役やってたこと」
「知ってるわ。あなたのことは昔からよく知ってたから。まぁ、それがあなたにとってどういう意味をもつのかも含めて、話すべきではないと思ってあえて口には出してなかったわ」
「流石は元祖ストーカーだな」
「あら、褒められてる?」
「ブレないね。本当」
「けど、良かったの?あんな約束して」
「...この関係のことをバラされるよりマシだからね」
「そう。ちゃんと大事にしてくれてるのね」
「当たり前だろ、奥さんなんだし。実際真凛ちゃんのおかげで俺はここにいるわけだから」
「そうね。その感謝の気持ちをずっと持っていることね」
「おう。お母さんにも挨拶しちゃったしね」
俺はある約束を七谷さんと交わしてあの場はお開きとなった。
それから真凛ちゃんと2人で映画を観て、ショッピングモールでお買い物をしていたのだった。
そうして、服を選んでいる間も、うちの高校の制服を着た子達とすれ違うが誰1人真凛ちゃんに気づくものは居なかった。
もちろん、俺も気づかれなかった。
「いい買い物だったわ」
「そりゃよーござんした」と、両手にいっぱいの荷物を抱えた俺は返答する。
「今度水着も着てあげるから楽しみにしておいて」
「...水着ね。海は結構行ってたりするの?」
「ううん。あまり日光に強い方じゃないから、小学生以来行ってないわ」
「...喋り方そろそろ戻してくれないですか?」
「あら?こういう私は嫌い?」
「悪くはないけど、らしくないかなって」
「らしくない...ね。んじゃ、いつも通りに戻そっかな!」と、いつも通り腕に抱きつく。
「ちょっ、荷物持ってるんだけど...」
「男は女の荷物を持つためにいるんだよ??」
「...さいですか...。それより...七谷さんのことだけどさ...。真凛ちゃんが嫌ってたのってああいう性格だって分かってたから?」
「ううん。女の勘だねー。そりゃ、碧くんに色目使ってるのもムカついてたけど、嘘ついてるっていうか、演技してるっていう匂いがしたんだよね!
「ふーん。嘘つきの匂いね...」
「そゆこと!まぁ、私たちが結婚してることバレちゃったわけだし、色々気をつけないとだからね!弱みに漬け込んで何をするか分かったもんじゃないし!」
「...そうだね。俺も気をつけるよ」
「そう!それなら良かった!」
そんな風に会話をしながら2人で帰るのだった。