…――それを可能にするのは……、
《天藍の理族》と呼ばれる異能の血統が製造する道具……《法具》に秘められた可能性。
《法具》を活かし、空間を編みあげるのは…――
いにしえよりうけ継がれてきた知識の発展形を理解し、なおかつ、それを現実にする資質――《心力》に恵まれたひとにぎりの人間。
空間を編む《鎮め手》を補助し守護するのは、おのおのの目的や都合・理想や思い入れなどから、不自由も少なくない契約に縛られることを望むという闇人……もしくは、それに準ずる者たち。
三種の知恵と才能は、淡紅色の館で、どれが欠けてもなりたたない三巴の調和をみせ、平穏を維持する力となる。
北の小さな村に生まれ、その術を確立したはじめの《神鎮め》が居をかまえたのは、深い森と清水をたたえた九つの湖に囲まれて存在する《千魔封じの丘》。
その中央にあって、留まる者、住む者が増える都度、土を盛り、増改築をくり返してきた敷地と淡紅色の建物群はいま、《神鎮め》の技を正式に伝え秘め置く無二の学び舎としてあり、国や自治都市の権謀術数、利害人道が飛び交う中も、どの権力に媚びることなく中立を保っている。
彼らが活動する比較的安全な領域において、文化的繁栄をとげた人々は、人里離れた土地を占め、余人をよせつけないようでもあるその勢力拠点を思い思いの表現で呼ぶ。
《法の家》《天守の館》と讃えるその陰で、
《治外法権》《闇人の古巣》《隠れ蓑》《異人館》《異邦人の里》……
果てには《背徳の城》《金の亡者の巣窟》《伏魔殿》とまで噂する。
尊敬と憧憬を集め、依存される一方で、ねたみ、そねみ、時には恨みも買う異端的組織。
その大陸の西側を半ば平定した力と知恵は、多大な影響力を及しつつも、広く普及するには至らぬまま、頑固な法の番人のように存在していたのだ。
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