法の家.1
この
北方続きに東西を二分する内海を抱いたその陸地のとある場所に、
小さな都市ほどの面積の土地に点々と散らばる、印象やわらかな人工物による景観。
緑豊かな庭や耕作地、林、広野を等分にふくむ、人のなわばり。
余人を寄せつけぬ森に囲われた広大な
それは、大小・円形の平地を内に
三つの円をくの字に重ねならべたような
その人の
そういった気配を漂わせているのは、主にその空中や地面・壁、道具類と
無数に置かれ、幾何学的な装飾品のごとく
《法の家》《
さまざまな呼ばれ方をするこの組織。居住区。《家》には、人と異なる空域を故郷とするといわれている《
三種の知恵と特性があみだした手法——
荒ぶる魔的なものと交渉し、関係の
誰が言いはじめたのか不明ななかにも、人々は、それを可能にする技の
一軒の小さな邸宅が、かつては森だったこの一角に築かれてから、およそ一二〇〇年。
ほんの数日で円形の
しかし、けっこうな知識量と精神力、人格および能力適性を必須とするその手法を
それを前線で活用するにも、いつ
人間・亜人・闇人——
おのおのが生きゆく環境と道徳……ゆとりと
限られた者が、あっちへこっちへと
🌐🌐🌐
「髪が水色っていうか、緑っていうかさ…。……青白かった」
「亜人だな。そうでなければ染めてるんだろ」
「ん。でも、うす汚れてて、
「変化したのか?」
「いや。なにか……ありがちじゃないって
整備のいきとどいた公園めいた敷地に、
こそこそ、ざわざわと、おちつきのない空気が回遊していた。
「怖い感じはしなかったけど、あんな
「だから亜人だろ。(亜人は)いろんな
「
「なんで声かけなかったの?」
「なんでって(目が合ったような気もしたけど、講習はじまりそうだったし……)……。安全にみえても危険かもしれないだろ。怪しいしな」
いっぽう。
その
短くまとめられている灰色の頭には、かなりまで白い流れがまざりこんでいる。
〔……。
彼の背後でなされたのは、そのあたりの人類が使う響きではなく、
いつからか男の後ろにいた少年の口から発せられた言葉だ。
そこで足を止め、ふり返えった熟年の男は、なにを思ってか、これみよがしに意外そうな顔をしてみせた。
そうして見いだした色白な少年を、挑発しているともつかない態度で意図的に見おろす。
その男の青い瞳が
金茶色の頭のてっぺんが、さほど背が高いほうではない彼の肩より、わずかばかり低い位置にある。
〔そうか。君に追尾されるなど、おかしなこともあるものだと思ったら、それが言いたかったのだな?〕
とうの少年は、問いとも確認とも
その瞳は、持ち主の気分や状態によって色彩が変化する不思議なものだ。
半数ほどの闇人にみられるという、
個体によって
例外あるなかにも、通常は個が持ちうる
〔
いま、そう告げた少年の瞳には、未成熟な外見にふつりあいな
▽▽ 注釈 ▽▽
――ちょっと紛らわしいかな、と思ったので……
※ 《
総帥や総裁やらは、なとなくイメージじゃなかったのです。
🌐🌐🌐
「――おい、おまえっ」
声がかけられるのが先か、その子が相手の気配に反応するのが先か…――
くるりとふり返ったのは、
肩から背中にかけて、そのままにおりている不ぞろいな頭髪はボサボサで、緑とも青ともつかないくすんだ発色を見せている。
大きく見ひらかれた瞳は、赤っぽい茶色……
闇人のそれに似通う印象を受けないこともないが、少なくとも
それと目をこらして観《み》れば、地色と思われる赤ワイン色の中に青と灰色と黄色の砂状の
きらきらと、深くも浅くも
「
声をかけたのは、
たちあがりがちな短髪は明るい金色で、肌はこんがりと日に焼けている。
その彼が、園内の小道を
「どう
警戒心を働かせたその子が一歩
それ以上、距離を縮めることなく、意思の
「ここは《
「しずめ……」
(お…。男の子だな)
その子の口からこぼれたのは、
男が発した言葉の部分的な復唱にすぎないつぶやきで、問い返しとも独白的な
いくらか
手入れが充分とはいえない頭髪が胸までおりていて、遠目には見わけ
背丈が伸びるのも
「《法の家》は?」
「そうとも言うな。この家の呼び名は少なくない」
「《
「そうだが」
「ここ、ここにヴェルダ、いる?」
「ヴェルダ?」
「いる?」
「私は知らないが……」
「いないの?」
「
「そいつがオレを? 呼んでいるのか?」
「そうだ」
「どこ、行けばいい?」
「案内する。ついて来い」
「ん」
危ぶむ気配をほの見せつつ、いそいそと近づいてきた少年を
「おまえみたいなのを見ると、風呂にほうりこんで、その頭、なんとかして、
🌐🌐🌐
ぱっちりとひらかれた青と灰色と、黄の
そのなかにある漆黒の瞳孔がとらえがちなのは、通された部屋の壁際で、こちらを見るともなく立っているひとりの少年だ。
人間であれば、十二、三歳の外見。
そのくらいの年格好の同性を見かけると、つい、目で追いかけてしまう彼だったが、自分と同じくらいの年代だ。
なんとなく気になりはしても探している人物は、自分より二、三歳上。
十四か、十五か十六になっているだろうから、それではありえない――そう見当づける。
それに、あれは……
闇人だ。
そこにいるのがあきらかなのに、存在感が皆無といっていいほどに薄い。
自身の身に
そこにあるのに、まったくといっていいほどで、呼吸すらしてない印象をうける。
どんなに気配を消すのが得意だろうと生きた人間には決して
そう認識すると、
(ほんとにいっしょに暮らしてるんだな……)
そう思っただけである。
いま彼は、再三
重厚そうなテーブルを
「つまり君は、人を探しに来たんだね?」
「うん」
「しかし、君より
「オレは、ヴェルダと呼んでいた。髪は……。……たぶん、金か明るい茶か、もしかしたら赤毛……。たしか……、陽色にも見える明るい色なのに、なんでか、ちょっと深い色が入っている感じなんだ。それでいつも顔の下半分を布で隠してた」
「ふむ…。…その響きは記憶にないし、
「ない。でも普段は隠してた」
「そうか。
「知ってるから、会えばわかる」
その少年は
事情を聞く側としては、それと
なぜ、そんなふうに探りをいれたのかを言えば――
心までは読めぬまでも、その少年のしぐさに、いま口にした内容を自問自答しているような迷い、落ちつきのなさが見えていたからだ。
そんな状態で「会えば
まだ子供である。べつに子供でなくても、話す能力・考え方の癖、進度や体質はそれぞれなので、あいまいな部分は別としても。
いい加減に対応していれば
「――ともあれ」
求めるものをちゃんと把握しているか否かは、つまるところ、その子自身の問題だ。
「そう
「そうする!」
そこで、ここの家長だという男は、両の手のひらで自身の左右の
言われなくても同行するつもりらしい少年を視界に、油断大敵の代名詞のように言われる
「では、少しまわってみるとしよう」
「君は、なかなか興味深い気をしている」
「……キ?」
「気配……存在の様式、命としての威力だ。霊力が高ければその容量も
同時に存在もしうるのに、必ずしも
青磁色の髪の少年――セレグレーシュは、つらつらとくり出される言葉をそのままに聞いている。
「――どちらも心身の成長にあわせて、
「シンリョク……」
「うむ。
一般に言われる人外の超常能力――《念力》《思念力》と反応が似ているようでも、本質的には異なるもので、そのへんにある物質――
「……ときどき聞くけど、それ、きたえると強くなるのか?」
「そうだ。君のは、ほどほどに見えながら
手なずけ顔の組織の代表と、青磁色の髪の少年が部屋から出ていく。
その場にいたもうひとりの人物――
金茶色の髪をした
その足は、十五歩ほどの距離を
対象の姿が死角に