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6 Caseエビータ⑥

 マイケルは冷たくなったエビータの掌に顔を押し付けて肩を震わせている。
 ゆっくりと歩いて行く医師をキャトルは無表情で見送った。 
 駆けつけてきたメイド長がメイド達に集まるように指示をした。
 わらわらとロビーに集まったメイドに向かって静かな口調で話し始める。

「奥様が亡くなったことはみんなもう知っていると思います。村人たちにもすぐに伝わるでしょう。奥様の遺体の状況から、1年前に起きた事件と同じ犯人では無いかとのことです。
捜査は警備隊がなさいます。もしも協力依頼がありましたらまず私か家令様に相談してください。絶対に勝手に動いてはいけません」

「「「「はい」」」」

「それでは皆さんは通常業務に戻ってください」

 メイド達はバラバラと持ち場に戻った。
 キャトルも他のメイド達と洗濯部屋に向かいながら、前を歩くメイドに声を掛けた。

「奥様の遺体を包んだ毛布とかタオルも一緒に洗う?」

「え?衣類とかと一緒に?それは……それは別にしようよ。っていうか捨てていいんじゃない?だって気持ち悪いじゃん」

「うっ……そうれはそうだけど」

「あんたメイド長に聞いてきてよ」

「え~私が?」

「そうよ。新入りなんだから」

「はぁ~い」

 キャトルは踵を返すふりをして、気配を消してメイド達に付いて行った。
 メイド達は神妙な顔をしつつも、いつものように噂話を始めた。

「奥様って殺されたんでしょ?」

「そりゃそうでしょう。内臓がぽっかりと無くなっていたって聞いたわよ?」

「しかも素っ裸で置き去りでしょう?そう言えば内臓ってどうしたのかしら……」

「って言うか死んでから出したの?それとも生きたまま……」

「きゃあ! やめてよ! 生きたままなんて有り得ないわ!」

「だって死因が特定できないってお医者様が仰ってたのを聞いたわ」

「うへぇぇぇぇ」

 エビータはメイド達に慕われていなかったのかしら?
 キャトルはふとそんなことを思った。

「奥様ってほとんどお部屋で過ごしておられたでしょう?メイド長しかお部屋には入らないし。私は三年ここに居るけど、掃除以外でお部屋に入ることが無かったからほとんどお話したことも無いのよね」

「私もよ。廊下でお見掛けすると笑いかけては下さるけど、親しくお話しすることはなかったもの」

 なるほど、エビータは使用人とはあまり接しなかったのね。
 そう思ったキャトルは情報を聞き出しやすいと判断し、メイド長にもとに向かった。

「捨てちゃって構わないって」

 洗濯部屋に入ったキャトルは先輩メイド達に声を掛けた。
 その場の全員が安心したような表情を浮かべる。

「お葬式って明日かな」

 キャトルの声にシーツを洗っていたメイドが応えた。

「まだ先じゃない?死因がわからないって言うんだもの」

「そうよね。でも腐らないのかしら」

「あんた! 気色悪いこと言わないでよ! それでなくても地下倉庫に幽霊が出るって言われているお屋敷なのよ」

「幽霊?」

「そういう噂よ。メイド長が奥様から聞いたって言ってたの。だから地下倉庫には絶対に一人で行ってはいけないって。あんたも採用されたとき言われたでしょ?」

「あっ、そうだった。忘れていたわ」

 呆れた顔で先輩メイドは再び手を動かし始めた。
 キャトルは思った。

(面白いわ。セプトに言ってゼロに報告ね)

 しれっと洗濯室を抜け出したキャトルは庭師小屋へ向かった。

 庭師小屋にはセプトと共にオーエンとサシュもいた。

「あら? 皆さんお揃いで」

「どんな感じだ?」

 オーエンが親指を立てて本館の方を指した。

「凄い泣いてるけど、何ていうか……彼女の死を悼んでいるというより、彼女を失った自分を嘆いているって感じかなぁ。どちらにしても、あのまま放っておいても近いうちに狂うんじゃない?」

「なるほど。では恙なく狂っていただきますか」

 セプトが笑いながら言った。
 サシュが眉を上げて話す。

「それにしても地方貴族とはいえ子爵家当主が自分の裸体を晒すなんて、凄い覚悟だな」

「ああ、本当にな」

 4人は誰ともなく黙禱を捧げた。

「屋敷での協力者の目星は着いたか?」

 キャトルが答える。

「家令と従者が二人。この二人は家令の親戚よ」

「他は?」

「関係ないみたいね。でも、みんな彼女には無関心を貫いていたみたいよ。家令の指示なのかもしれないけれど」

「まあ、どちらにしても全員解雇だ。少しずつ減らすのが良いだろうな。残したい奴は?」

「メイド長はなかなか使えそうかな」

「じゃあ今後のこともあるから残留方向で」

 キャトルはお道化たように敬礼の仕草をして小屋を出た。
 サシュはポケットに小瓶を忍ばせて、スッと消えた。

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