2 Caseトマス②
外見からは想像もできないほど機能的に整えられた部屋に集まったのは「イヴォル」の代表であるシスターベルガとオーエン、サシュとレナ、そしてゼロとドウとシスの7人。
楕円形の大テーブルを囲んでいる。
「今回は人数が多いのよね」
ため息のようにレナが言った。
「でも害虫は4人であとは雑魚だ。それに変態のゴミは纏めて燃やせば良い」
「燃やすか……それ良いかもね」
ゼロがニヤッと笑ってドウを見た。
ドウは少し俯いて笑いを嚙み殺すように言った。
「ゴミを燃やすと悪臭がして近隣から苦情が来るぜ?」
「今回は私も出ようかなって思ってるの」
ベルガがそう口にするとオーエンが慌てて言う。
「おいおい、ラスボスはラストに出なきゃ。それまではここであの子の安らかな眠りを祈っててやれよ。一番おいしいところはちゃんと残しておくからさ」
「そう?そうか……オーエンは見に行ったんだよね」
「ああ、依頼人の最後は見届けたよ。微笑んでさぁ。変な言い方かも知れないけどとても安らかな顔をしていた」
「そう。きっと生きるのが辛すぎたのね」
誰ともなく手を合わせて祈りを捧げた。
「そう言えば、シアちゃんが言ってたシスターレアってどうなってんの?彼女は死んだような言い方してたけど」
「うん、トマスって子が死んでから1年後。死因が惨すぎて吐きそうになったよ」
顔を顰めてサシュが言った。
そんなサシュの顔を見てシスが驚いたような顔をする。
「サシュがそこまで言うってよっぽどね」
「ああ、まさに鬼畜の所業だな。シスターは妊娠していたんだ。あの状況で客の子を孕むのも酷い話だが、臨月まで働かされてステージ上で産気づいて、気持ち悪がった客に腹を蹴られて死んだらしい」
シスが眉間に皺を寄せて言う。
「マジか……蹴ったやつ分かってるの?」
「それはもう無理だろうな。でもああいう秘密クラブは固定客が多いから探ればわかるさ」
「絶対に突き止めて。一生地獄みるスペシャルポイズン用意するから。絶対に楽には死なせないやつ」
「うわぁ~、シスが怒った」
ドウが思い切り引いた顔で仰け反った。
気を取り直すようにゼロが口を開く。
「今回はちょっと時間をかける。といっても1か月かな。一番の害虫は秘密クラブの経営者で、二番目はトマスの母親とシアの父親。そしてアニタだ。あとは伯爵夫妻と客たちってとこかな」
「毒虫4匹とゴミってことだな」
ゼロが頷いた。
「明日から動く。それではよろしく」
ベルガとオーエンを残し、それぞれが準備のために席を立った。
その背中を見送りながらベルガが言った。
「ねえ、あの子たちはなんであんなに怒ってるの?」
「うん、まあ……あいつらも同じような境遇だったからだろうな。ちょっとした違いで自分がそうなっていたと感じているんだと思う。それに被害者の一人がシスターってのがな」
「ああ、そうか。そういうことか。でもなんだかちょっと安心した」
「何が?」
「あの子たちにもまだそんな感情が残ってたんだなって思って」
「そうか?俺はそんな感情は早く捨ててしまった方が奴らのためだと思うぜ?あいつらは仕事になると冷徹になるけどそれは訓練で身に着けたものだ。根幹は悲しいほど優しいよ」
「うん。確かにね」
二人はそれきり黙って、もう冷めてしまった紅茶を飲んだ。