溶けるのは誰?
配達員が来る。郵便制度は明治4年から始まっていて、妖怪の郵便局でも真似をし始める。
「深雪さん、お手紙ですよ」
これは閻魔庁から裁判の陪審員として参加を要求される話だ。
「ひょうすべさんがお魚を盗んだ……そうなんですね」
何があったのかは分からないが、玄助が雲龍入道の所に行かなかったことが影響しているように思えた。
「玄助への効果を確かめる為に別人でも……ということなのでしょうか」
深雪はほとんど一定間隔で鳳神社に行く。
新政府軍の
「斎さん。お仕事お疲れ様です」
向こうは深雪にそれほど関心がないらしく、
深雪は一部は白蝋王に持っていかれたのではないかと思いながら、神社の裏手に回る。
裏手では別の神社を合祀してある。置いてある像はどこかで見た印象を受ける。
(いつか見た奈落の神さまにそっくり)
(ようやく来たね。何が聞きたい?)
「そうですね。白蝋王に会わずに次の時を迎えることができれば……」
呼びかけには答えは帰ってこない。でもアイディアが湧き上がってくる。
(塔季に力を移した水笛を持ってもらいましょう)
予定するのも変だが、この後風邪を引く。
大石医院で治療を受ける時に、
(大石医院で寝ていればよさそうです)
(また来なよ)
裏手の神社の像に見送られ、深雪はその場所から離れた。
神社にほど近い場所に民家があり、老婆が座っている。
いつもは寄り道をしない深雪だが、お婆さんに声をかけられお茶に誘われる。
「昔は茶屋をやっていたんですよ」
神社の隣の茶屋は流行ったと思われる。
しかし今は、近代化と科学の発展によって分かることが増えた。
「無信心でも何にもないことを分かってしまいましてね」
信仰が失われてただの木像を見に来る参拝客は減り、観音茶といっても飲んではくれない。
「わたしは飲みますよ」
妖しが飲むのは変な光景だ。
じっと見ていると、囲炉裏のある民家。
南部鉄器の鉄瓶で沸騰気味のお茶が作られる。
それではとても飲めないと思っていたところ、グラスに角氷が入れられそこに注がれると夏向けのアイスグリーンティーが出来上がった。
「氷は珍しいですね」
氷室といって氷の貯蔵庫から運んでくる氷が使われている。
一月も経つと何もなくなってしまう。今の深雪みたいに。
ある時期、裏横丁雑貨店では深雪がいない。
しかも今回はそれが長く続くという。
「珍しいおますな。玄助はんが全部仕切っているのですな」
仕入れの木村が玄助の作った伝票を受け取る。
「うん。ちょっと大変だけどね。ほら、猪笹さんもいるし」
歯ブラシのお客の猪笹王も雇われ、雑貨店で荷物を受け取って並べる係をしている。
妖しでは強くて偉いほうだけど、雪女深雪の方が上だ。
深雪に使われるならこういう場所にいてもおかしくない。でも問題もある。
「猪笹さんの周り、誰も来ないんだよね」
一つ目の猪はやっぱり怖い。接客は玄助が全部する。
雑貨店に新しい客、
塔季がスカウトした妖怪を買い付ける人物だった。
雑貨店のテーブル売り場に塔季と腎栄がいる光景が長く続く。
「でもな、水笛預かっているし」
猪笹王がいる場所に塔季がいれば、強盗が来ても安心だ。