贈り物は
今日も仕入れの木村がやってくる。
「お、木村さん。丁度いい所に」
玄助が注文伝票を渡すところを塔季が割り込む。
「難しい話があるんだ。玄は渡すの待っててくれるか?」
「いいよ」
塔季は木村と控え室に入ると鍵をかけた。
「どえらいことなんです?」
塔季はあくまで推理と断った後、話を続ける。
「どうやら妖し連中は、雪女深雪を使って
「なるほど」
「許婚を思う気持ち……それが深雪を過去に送っているのだが、それを利用してこの時代を永久に続けているんだ。俺らはどんどん進んでいる感覚しかないが」
木村は思い当たるらしく、塔季の言葉の続きを当てる。
「塔季はんは、深雪はんを解放したい……と。それで敵は分かってはるのです?」
「分からない……玄助すら怪しいと思っている」
「積極的に玄助はんに話しなはれ。木村は玄助はんは片棒担いでたとしても、深雪はんに好意を持ってると思っておりますさかい」
話して立ち位置を理解する。2人は話をそれくらいにして、雑貨店に戻ってくる。
塔季が店に戻ると、玄助が商品説明をしている途中だった。
「明け六つと暮れ六つの和時計だよ!」
洋時計は一日を24等分し、AM12時とPM12時で表示をする。
それに対し和時計は、太陽の当っている時間を使い、1年で違う。15日ごとに錘を付け替える。
その代わり冬で日没が早くなっても、何時までにという枠は変えなくて済むらしい。
「日が落ちると作業できなくなるお仕事に!」
紳士風の山高帽の人が買おうとする。
間の悪いことに、豚顔料理人がトイレを借りに来て余計なことを言う。
「叔父さん、そんなそんな
洋時計に押され、和時計はめっきり減った。
使われなくなったら支払ったお金は無駄になる。
「そんなことを言って。みゆみゆだったら凍らせてるよ、焼豚じゃなくて氷豚」
玄助は不快そうな表情を向ける。
豚顔料理人は紳士の笑顔に満足して去っていく。
「いいことしたつもりなんだろうけど!」
和時計を作った人のことを考えていない。
説明している間、時計に興味がなくて園芸用品コーナーにいる人を見かける。
玄助が忙しいので塔季が対応している。
「スコップは輸入品でここには入ってないなぁ」
木村さんに仕入れを頼むかは迷うところだ。
日が暮れて、玄助が閉店の作業をしていると塔季が話しかけてくる。
「なあ、深雪のことなんだが」
玄助は何かと思って聞くと、許婚に固執していることについて話したいらしい。
「雑貨店の運営も上手い。人当りもいい。このまま埋もれさせていいのかと思う。いや、玄助がもう少し大きくなったら……」
「それは僕も思いますけどね」
この妖狐はフフッと微笑する。
「深雪さんは秘策を使ってもこの年代から抜けられないような気がしますよ」
塔季は話を続けるのも
好きな人という話題はどこかの学生っぽい。
「えっ……と、清姫」
蛇の妖怪なんだけど、緑髪のすごく可愛い姿で出てくる。
玄助も1度見たことがあって、ホワイトデーみたいなイベントがあれば何かあげてみたいそうだ。
一途らしいけれど、塔季は狐と蛇の相性はどうなのかと思ってしまう。
「異世界通りには住んでないんだろ?」
玄助は首を縦に振る。紀州和歌山の妖しらしい。
閉店作業中、大石医院から使者が来る。深雪が消失したという知らせが入る。
水笛も溶けたのか手元からなくなっている。預かった意味がない。
「探すぞ玄助……」
塔季に呼びかけられると妖狐は仕度を始めた。