24.ニセモノを掴まされた女、もう一人の異端者
ナンブが恨めしい目をレインに向けながらアイスシェイクを啜った。
ズズズzzと音と精一杯に頬を凹ませている割には、ストローを這い上がるシェイクの量は少ない。
遂には顔を真っ赤にして吸い上げる。
堪らず一呼吸を入れる。「フアァァ」
またストローを口にくわえて…すると、正面に座るレインがウォーキングシューズの入った箱をテーブルから下した。
「そんな目で見ないでくれる?だって、仕方無いでしょう。あの時、アナタはもうガス欠状態だったし、極力エイジとは戦闘を控えたかったし」
言い訳を並べ立てた。
実際、ナンブのディープステッチャーは、高出力・高カロリー消費の技であって連射は利かない。
脅しをかければ、大人しく匣を差し出すと思っていたのに、
「フツーなら、こんなに離れてから箱の中身を確認したりしませんよ」
シェイクをススリながら指摘してくれた。
「だから、反省しているじゃない」
告げて、レインはフゥと低血圧気味な溜息を洩らした。
「今頃戻っても、きっと、あのマンションはもぬけの殻ね」
まったくもって、してやられたという訳だ。
「いい?ナンブ。この事はフォグやスノーには内緒よ。いいわね」
念を押され、ナンブはストローから口を放さないまま頷いて見せた。
「それにしても厄介な能力を持ち合わせているわね…エレメンツを分子レベルで分解する蹴り技を持っているなんて」
ハッタリかもしれない疑惑の余地は残るも、真実として受け取っておくべきだとレインは考える。
実際にフィーエは一撃で倒されている。
(これ以上、彼らを刺激しない方が得策かも…)
思う一方、今後どうやって彼らから匣を奪えば良いのか?思案するも、まずは彼らの居場所を突き止めなければならない。
増えてゆく手間に、頭が痛い。
こめかみに人差し指を押し当てて「ウーン」難しい顔をしていると。
「アイスクリーム頭痛というヤツですか?」
「そんなんじゃないわ!」
訊ねるナンブにピシャリ!と言い切った。
ニセモノを掴まされるわ、姿をくらまされるわで、イライラが募り、注文したアイスシェイクに口を付ける間さえ無い。
腹たち紛れにアイスシェイクを啜る。思いの外、吸引力を必要とする。
キーン☆
思わず両手で目を覆った。小さく呻き声が漏れる。
ホントにアイスクリーム頭痛が来てしまった。
頭がキンキンと痛む中、メール着信の音楽が鳴った。
チカチカする目でスマホ画面を見る。
フォグからだ。
“緊急報告”とだけタイトルが付けられたメールが送られてきた。
内容は。
『もう一人の異端者の目撃情報が入った。彼も京都にいる』
驚きたいのは山々だが、何せ頭痛が凄まじくて、素直に驚けない。
それでも。
サンジェルマンと同じく人の理(ことわり)から逸脱した者。
彼女ほどではないが、その名を歴史に刻んで280年は経とうかという人物。
1791年に獄中死を遂げたとされるも、その後も教会は何度も彼の名を名乗る人物に遭遇している。
かつての姓を捨てて、今は名だけ名乗っている、その男の名は。
“カリオストロ”