使い魔の森の超巨木の家 その1
「て~ん~ちょ~う~ちゃ~ん~……」
コンビニおもてなし7号店の人事案を週一定例の責任者会議で発表する前に、当の本人であるコンビニおもてなし4号店店長のクローコさんに最終確認をとったところ、冒頭の言葉を口にしながら僕の背後をつきまとわれた次第でして……
「いや、どうしても嫌なんだったら別の案を考えるけど……」
僕がそう言うと
「……店長ちゃんやパラナミオちゃんと一緒なのは嫌じゃないし~……あう~……そんな複雑な乙女心、みたいな~……あう~……」
クローコさんは、そんなことを口にしながら、相変わらず僕の背後をつきまとい続けたわけでして……
で
もう一方の当事者であるブロンディさんにも、意思確認を行ったところ、
♪私は~
♪クローコさんとなら
♪例え火の中水の中~ドゥワ~
と、重低音ヴォイスで歌いながら条件付きの了承を取り付けることが出来た次第です、はい。
まぁ、そんなわけで……
今週の定例責任者会議では、
新設するコンビニおもてなし7号店に、
僕が店長として
クローコさんとブロンディさんがダブル副店長として
パラナミオが店員として
それぞれ移動し、4号店は、
ララデンテさんが店長に
ツメバが副店長に
それぞれ内部昇格し、新たに2名程度の新人さんを募集する
と、いう移動案を提案し、一応全員の承諾を得ることが出来ました。
不満たらたらな様子だったクローコさんだったものの、
「お店の状況で考えれば適切な人事だと思うし~、そこに個人の感情を過度にぶちこむのはよくないと思った、みたいな?」
と、見た目とは裏腹に社会人としての思考をしっかりと繁栄させてくれた次第でして。
正直、クローコさんのこういうところを、僕も評価させていただいているわけでして、だからこそ、7号店の副店長に抜擢させていただいたわけです、はい。
僕は立場上、店長でありながらコンビニおもてなしグループの会長でもあるわけです。
なので、どこかの部署で何か問題が発生したらそちらの対応につきっきりにならなくなる可能性があるわけです。
そうなると、僕が不在の間の7号店を切り盛りできるだけの人材を副店長に抜擢しておかないと……と、なるわけです、はい。
これは、辺境都市ナカンコンベにありますコンビニおもてなし5号店~現5号店東店~を開店する時にも考慮した次第でして、それで当時2号店の店長を務めてくれていたシャルンエッセンスを副店長に抜擢して、僕と一緒に頑張ってもらいまして、その後店長として5号店の経営を引き続き担ってもらっている次第なんですよね。
◇◇
責任者会議が終わった後、
「あんの~店長さん、ちょっとご相談させていただいてもよろすぃでしょうかぁ?」
と、独特ななまりのある言葉で僕に話しかけてきたのは、チウヤゲレンデに今年新装開店したチウヤおもてなし旅館の責任者代理として責任者会議に参加していたクマンコさんでした。
熊人でシングルマザーのクマンコさん。
以前は4号店で働いていた彼女なんですけど、実のお父さんが責任者を務めることになったチウヤおもてなし旅館に戻り、そこでお父さんのお手伝いをしながら、旅館内でコンビニおもてなしチウヤゲレンデ出張所を切り盛りしてくれているんです。
「どうかしたんです? クマンコさん」
「はい~実はですね~……」
そう言って、クマンコさんが切り出したのは、クマンコさんの11人いる子供さん達のことでした。
「実はぁ、うちの子供達を~、学校に通わせたいと思っておりましてぇ……つきましてはぁ、店長さんのお子さん達と一緒の学校に通わせたいなとおもってるんですぅ。子供達もそれがいいって言っておりましてぇ」
そういえば、クマンコさんの子供さん達と我が家の子供達は何かと交流があるんですよね。
ジャッケが川を遡上してくる季節には、一緒にジャッケ狩りを行ったり、
夏にはティーケー海岸で海水浴を一緒に楽しんだり
冬にはチウヤゲレンデで一緒にソリ遊びを楽しんだり
と、まぁ、一緒に過ごすことが多くてですね、我が家の子供達もクマンコさんの子供達と一緒に遊ぶのをすごく楽しみにしている次第でして、
「そうですね、クマンコさんの子供達と一緒なら、ウチの子供達も喜ぶと思いますし、大歓迎ですよ」
僕は笑顔でそう返事をさせてもらいました。
それに際しまして、転移ドアの使用許可と、場合によっては子供さん達を我が家で預かることもお願いしたいとの申し出を受けた次第です。
そうなると、今僕達が暮らしている巨木の家では少し手狭になってしまう感じですけど、まぁ、少し無理をすれば入れないこともないかな……
ってなわけで、
「じゃあ、春から同級生ってことで、よろしくお願いいたします」
「こちらこそぉ、よろすくおねがいすますぅ」
クマンコさんは、すごく嬉しそうに微笑みながら頭をさげてくださいました。
◇◇
で、
家に戻ってその事をみんなに伝えると、
「わぁ、クマンコさんとこのみんなと一緒に学校に通えるんですね! すごく嬉しいです」
「アルトもとっても嬉しいですわ」
「ムツキもにゃしぃ」
「アルカも、リョータ様や、アルトお姉様、ムツキお姉様と同じアル」
と、みんなも笑顔で了承してくれた次第です、はい。
すると……
ここでスアが何やら腕組みして考え込み始めました。
「スア? 何か問題があるのかい?」
僕がそう言うと、スアはしばらく考えを巡らせた後、
「……旦那様、家を新しくしない?」
そう言ってきたんです。
スアが言うにはですね……
子供も増えたし、スアにお願いしている業務も増えているわけです。
それら全ての対応をするには、今の巨木の家では若干手狭になりはじめているわけでして……
巨木に実を実らせて、それを部屋として増築する方法もあるのですが、すでにそれも限界に達しているとのことで……そういえば、ずいぶん実の部屋も増やしていますからね。
「……これ以上増やすと、巨木の家が枯れかねない、の」
とのことだそうでして……
「で、スア。具体的にどうするんだい?」
僕がそう聞くと、スアは、
「……使い魔の森の中に、超巨木の家を建てようと、思うの」
そう言いました。
今僕達が暮らしている巨木の家は、もともとスアが一人で暮らすために、巨木にプラント魔法をかけて家化させたものなんですよね。
んで、今度はその魔法を、スアの使い魔の森に生えている超巨木に魔法をかけて、家にしようということのようです。
「スアがそう言うってことは、もう目処はたってるってことなのかな?」
「……うん」
僕の言葉に、こくんと頷くスア。
で、
僕と、パラナミオをはじめとした子供達一行は、スアと一緒に転移ドアをくぐってスアの使い魔の森へと移動していきました。
このスアの使い魔の森っていうのは、この世界の稀少な生き物たちを使い魔にして保護しているスアが、その使い魔達を自然の中で暮らせるようにと、異次元に存在している小規模な世界を占有している空間なんですよね。
大きさで言えば、僕が元世界で言うところの北海道程度の広さのこの世界には、スアの使い魔達と、養殖用に僕達が持ち込んだ生き物以外には生物はいません。
と、いいますのも……この世界は崩壊した後、再生の途上にある世界なんだそうです。
その崩壊っていうのがなんで起きたのかはスアにもよくわからないそうなのですが、この世界は大自然に満ちあふれているんです。
その大自然の中で、最年長のタルトス爺をリーダーとしているスアの使い魔達がのびのびと暮らしているんです。
その合間にスアビールやパラナミオサイダー、タクラ酒なんかを造ってくれたり、ジャッケを養殖したりと、コンビニおもてなしのためにあれこれ頑張ってもくれているんです。
僕達が使い魔の森に出向くと、
「おぉ、お待ちしておりましたぞ!」
「スア様と店長様におかれましては、いつもお世話になっておりますわ」
早速、スアの使い魔筆頭格のタルトス爺と、キキキリンリンが出迎えてくれました。
「……じゃあ、あそこに」
「はい、すぐにご案内いたします」
スアの言葉に頷くと、タルトス爺はその体を巨大化させて、僕達をその背にのせて歩き始めました。