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使い魔の森の超巨木の家 その2

 スアの使い魔の森の中を、僕達一家はスアの使い魔筆頭格のタルトス爺の背にのって移動していました。
 巨大化したタルトス爺は、見た目で言うと僕の世界のゾウガメに近いのですが、サイズが二十メートル近くありますのでまったく似ても似つかない生き物になっています。

「タルトス爺様、とっても楽しいです!」
「ほっほっほ、スア様のご長女様に楽しんでいただけまして恐悦至極ですのぉ」

 タルトス爺の頭の上に乗せてもらってご機嫌なパラナミオ。
 その言葉に、タルトス爺もすごく嬉しそうに返事をしてくれています。

 スアや僕達は、キキキリンリンと一緒にタルトス爺の甲羅の上にのっているのですが……

「スア……あの……僕達って新しい家にする巨木を探しにいっているのだよね?」
「……うん、そう」
「……え~っと……その巨木って……まさか……」

 スアの顔と、タルトス爺進行方向を交互に見つめていた僕の額には、ちょっと汗がなだれだしていました。

 いえね……

 タルトス爺が向かっている前方……まぁ、大自然豊かなここスアの使い魔の森ですので、当然晴れた空に白い雲が広がっているわけですが……その空の青の中に、何かが溶け込んでいるような気がするんです……そう、何かすっごく巨大な樹木が……天まで届きそうなほど高くて幹がぶっとい樹木がそこにそびえているような……

 ……いや……スアがいくら伝説級の魔法使いだからといっても、まさか、そんな

 なんてことを考えていた僕だったのですが……

 この時の僕の予想は、見事に裏切られました……当然のように……

◇◇

「うわぁ……おっき~……」
「天辺が見えません……」
「枝の先も見えませんわ……」
「葉っぱも大きいです……」
「こんな木みたことないアル」

 パラナミオをはじめとした我が家の子供達は、空をみあげながらぽかーんとなっています。

 その視線の先には、巨大な樹木がそびえていました。
 幹の直径が……えっと、これ、どれくらいあるんでしょうか……おそらく単位はキロでないと現すことが出来ないでしょうね。
 
 その樹木を前にすると巨大化したタルトス爺が、まるで子亀に思えてしまいます。

「スア……これって、まさか……ユグドラシルとか言ったりしない? それか世界樹とか……」

 僕は、ここに向かってくる際に、頭の中に浮かび続けていた樹木の名前を口にしました。
 すると、スアは首を左右に振りました。

「……そんな名前じゃ、ない、わ」
「そ、そっか、そうだよね、うん……」
「……これは、イルミンスール……ある世界の戦争で、切り倒されそうになってたのを、保護した……私の使い魔」
「へ、へぇ……そ、そうなんだ……」

 スアの言葉を頷きながら聞いていたのですが……

 ……ちょっとまって……イルミンスールって名前の世界樹も、どっかの新話かなんかに存在してなかったっけ……

 と……なんか、そんなことを思っていた次第でして……

◇◇

 ……でもまぁ、実際問題として、このイルミンスールを家にするのはほぼ不可能です。
 このサイズの樹木が歩いて僕達の世界までやってきたとしても、森の奥深くに根を張ってもらわないとどうにもなりませんし、それでもおそらく目立ちまくることこの上ないと思います。
 それに、こんな巨大な樹木の中を移動しながら生活するとなると……なんか、想像しただけで気が遠くなってしまいそうです。

 引きつった笑いを浮かべながら、そのイルミンスールを見上げていた僕なんですけど……

「……どの子が、いい?」
 そんな僕の横で、スアはパラナミオ達に何かを指さして選択させていました。

 よく見てみると、イルミンスールの近くに結構たくさんの巨木が伸びていたんです。
 イルミンスールがでかすぎるので、感覚がちょっと麻痺していたんですけど、それらの木も結構太くて大きい感じです。
 すくなくとも、僕達が今暮らしている巨木の家の樹より、最低でも一回りは大きい感じですね。

「スア、この樹はなんなんだい?」
「……イルミンスールの幼木……イルミンスールから落ちた種から成長したの、よ」

 スアは、笑顔でそういいました。
 え~……つまりここにある幼木すべてが、いつかはこのイルミンスール並にでっかくなるってことなんですかね?

「……その前に、売る」
「売る?」
「……うん、新しい世界を生成しようとしている人、に」

 スアはそう言うと、パラナミオ達に向き直っていきました。

 ……え~……背、世界を生成しようとしている人、って言うと、あれですかね、神様とかいう種族の方々ってことなんですかね?
 まぁ、でも、僕の世界で言うところの神様が住んでいる世界って、正式には新界っていうところなんですけど、そこには、元女神の使い魔だったマルンが、ヤルメキススイーツのお店と、コンビニおもてなし神界出張所を営業しているんですよね。

 ……なんといいますか……身近になったもんですね、天国……

◇◇

 そんな中、しばらくあれこれ悩んでいたパラナミオ達なのですが

「「「この樹」」」

 ほどなくいたしまして、1本の樹を全員一致で選択しました。

 その樹は、イルミンスールの幼木の中でも一番小さい樹でした。
 この樹を、パラナミオ達は、「小さくて可愛いから!」との理由で選びました。

 それを受けまして、スアが早速その樹にプラント魔法をかけていきます。
 この魔法をかけることで、樹が根っこを足にして歩行出来るようになるんですよね。

「……今回のプラント魔法は、バージョンアップした、の」
「バージョンアップ?」

 スアの言葉に首をひねっていた僕なんですけど……そんな僕の前でですね、スアのバージョンアップ版プラント魔法をかけられた幼木は、しばらくガサガサと葉っぱを揺らしていたかと思いますと、みるみるその体が小さくなっていきまして……

「は、はわわぁ!? す、スア様、ご、ご家族のみなさま……ほほほ本日は、わわわ私などをお家に選んでくださいまして、あああありがとうございう゛ぁ……あたた舌をかんじゃいましたぁ」

 小さな女の子の姿になって、なんかすっごく緊張しながら挨拶をしてくれました。

 その女の子ですけど、全身が緑色なのと、髪の毛がどこか葉っぱを思わせる感じになっているのをのぞけば、ごくごく普通の女の子にしか見えません。

 スアによりますと、先ほどの幼木を人型化出来るようにしたそうなんですよ。

 ただ、このスアのバージョンアップ版プラント魔法には使用に制限がかかるそうでして、生命エネルギーに満ちあふれている幼木に、でないと使用出来ないそうなんです。
 で、ないと、あっという間にパワーを消耗してしまって、枯れてしまいかねないんだとか。


 ちなみに、その幼木の女の子は、パラナミオ達によって

「ミンスちゃん」

 と命名されました。
 このミンスちゃんですけど、家の中を住居として使用しはじめた後でも木の枝の部分を変化させることでこの姿になることが出来るそうなんです。

 まぁ、つまり……我が家に家族が一人増えたようなもんですね。

「……ちなみに、スア……この世界樹の葉っぱって、すごく貴重なクスリになったりしない?」
「……うん、なるよ……蘇生薬の原料」

 ……なんかのゲームでも、世界樹の葉っぱって、蘇生用のアイテムだったはずなんですけど、そこら辺は善意世界共通なんでしょうかね……


 そんなことを考えながら、僕達は元の世界へと帰っていきました。

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